日本大百科全書(ニッポニカ) 「サッケッティ」の意味・わかりやすい解説
サッケッティ
さっけってぃ
Franco Sacchetti
(1332ころ―1400)
イタリアの詩人、小説家。フィレンツェ自由市の名門商家に生まれ、若いころから商用でイタリア各地を歩いたが、帰国後は市政府の要職につく。1378年、貧民たちによるチョンピの革命が起こり、小市民政権が樹立されたものの、2~3年で崩壊。晩年には北イタリア諸都市の行政官として招かれたりした。
サッケッティは青年時代から詩作を好み、ソネットやカンツォーネをつくったが、マドリガルやバラードのほうがむしろ得意であった。代表作は『短編小説(ノベッラ)300編』(邦訳『ルネッサンス巷談集』)で、著者自らボッカチオの「不肖で魯鈍(ろどん)な弟子」と自任しているからには、この小説は『デカメロン』に倣ったものとみてよい。事実、「素材としては、あのボッカチオ的世界と同じだが、よりブルジョア的、家庭的側面が強められている。警句、冗談、艶話(えんわ)、生臭坊主譚(たん)、逸話、世間話が飛び出してくる。庶民的な形式で書かれた庶民的な、低俗な生活である」と、デ・サンクティスは批評している。しかし、傭兵(ようへい)隊長や僭主(せんしゅ)、道化師、市民、ダンテやジョットが登場してくる話を読むと、市井の生活のほこりっぽさや喜怒哀楽を活写するなかにも、フィレンツェ人独得の才気や意地悪さをサッケッティが欠いていないことがわかる。ダンテ、ボッカチオ、ペトラルカ亡きあと、1300年代最後の作家であった。
[花野秀男]
『杉浦明平訳『ルネッサンス巷談集』(岩波文庫)』