イタリアの彫刻家、建築家。アンドレア・サンソビーノの弟子となり、その通称も受け継ぐ。本名はヤコポ・タッティJacopo Tatti。フィレンツェ生まれ。アンドレアのもとで彫刻を学び、初めローマで古代彫刻の修復をしたが、フィレンツェに帰って、画家のアンドレア・デル・サルトと共同で工房を営んだ。1518年にふたたびローマに行き、いわゆる「出産の聖母」(サン・タゴスティーノ聖堂)などを制作する。1527年のローマの略奪の難を逃れてベネチアに移った彼は、まもなくサン・マルコ大聖堂の監督官に就任し、ティツィアーノやピエトロ・アレティーノと親交を結びながら終生同地にとどまる。ベネチアでは、サン・マルコ大聖堂の聖器室のブロンズ扉やドゥカーレ宮前のネプチューンとマルスの巨像をはじめ、多くの彫刻作品を手がけた。だが、それにもまして重要なのは建築家としての活動で、その代表作はドゥカーレ宮に向かい合うサン・マルコ図書館と、そのわきの鐘塔基部のロジェッタなどである。彼はベネチアに盛期ルネサンスの建築様式をもたらし、アンドレア・パッラディオにも多大の影響を与えた。その建築は、彫刻家的な造形感覚のなかで、ローマの荘重な盛期ルネサンス様式とベネチア風の装飾趣味がうまく溶け合って生まれた、独特の魅力をもっている。
[石鍋真澄]
イタリアの彫刻家、建築家。本名はアンドレア・コントゥッチAndrea Contucci。アレッツォ近郊のモンテ・サン・サビーノに生まれたと考えられ、同地で没。フィレンツェのポライウオーロのもとで修業し、1491年以降9年間ポルトガルで仕事をしたと伝えられるが、はっきりしたことはわからない。記録に残る最初の重要な作品は、フィレンツェ洗礼堂入口の上部に置かれた「キリストの洗礼」(1502着手)である。1505年にローマに出て、サンタ・マリア・デル・ポポロ聖堂に枢機卿(すうききょう)の墓を2点制作した。これらは盛期ルネサンス彫刻の最初の息吹を感じさせる作品の一つとして重要である。13年以降、ロレートの聖母の家の装飾に携わり、優れた浮彫りの作品を残している。しかし、建築家としては独創性に乏しく、その活動はあまり評価されていない。
[石鍋真澄]
ルネサンス期ベネチアの都市形成に貢献したイタリアの彫刻家,建築家。生地フィレンツェでサンソビーノから彫刻を学び,師の姓を受け継ぐ。師およびG.daサンガロとともにローマに出てブラマンテの作風に接し,古典主義建築の理解を深めた。1519年,当代一流の建築家が加わったサン・ジョバンニ・デイ・フィオレンティーニ教会の競技設計に入選,一躍建築家として名を成すが,当選案の工事が進捗せず,27年のローマ劫掠を機にベネチアへ移り住んだ。29年以降,公共建築行政主任として,サン・マルコ広場の整備をはじめ,公共建築,教会堂,慈善施設,パラッツォ,ビラをつぎつぎと設計した。正統的古典様式を守りつつ,そこにベネチア建築の豊かな装飾性を反映させ,重厚さ,彫塑性,豊醇さ,明暗の対比効果を生かした優美さをあわせもつ建築造形を完成させた。彫刻は,初期(《パルトの聖母》《バッコス》)には平易で優美な造形性が,またベネチア期(《マルコの奇跡》《聖母子》)にはそれに加えて,柔らかい彫塑性に光の効果を計算した動きのある構成がみられ,作風は建築作品と共通する。代表的建築作品にサン・マルコ図書館,造幣局兼宝物庫(ゼッカ),ビラ・グラドリ,カ・コルネル(ベネチア市内最大の邸宅で,18世紀までの貴族住宅の典型となった)がある。
執筆者:日高 健一郎
イタリア・ルネサンスの彫刻家・建築家。本名コントゥッチAndrea Contucci。アレッツォ近郊モンテ・サン・サビーノ生れ。A.ポライウオロのもとで学ぶ。1491-1501年ポルトガルに滞在。その後フィレンツェ,ローマ,ロレートで制作。墓碑彫刻を多く手がける(大理石作品が多い)。ヤコポ・サンソビーノ(彫刻家で建築家)は彼の弟子。
執筆者:木村 三郎
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… 16世紀に入ると,共和国の本土進出とともにルネサンス文化がこの町にも流入し,建築様式にも大きな変化が生まれた。なかでもローマから来た古典主義建築家J.サンソビーノはサン・マルコ大聖堂の主任建築家として,サン・マルコ広場周辺の図書館,造幣局,ロジェッタ(鐘楼の下部にある柱廊)などの公共建築の建設に手腕をみせた。とくに,パラッツォ・ドゥカーレの対面に図書館がつくられたことによって,小広場(ピアツェッタ)に,〈ムーア人の時計塔〉を焦点とする透視図法的な都市空間がつくり出され,共和国の海からの正面玄関を完成させた。…
※「サンソビーノ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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