フィレンツェにあるドメニコ僧会所属の聖堂。ゴシック建築の傑作として名高い。1278年ドメニコ僧会の修道士建築家たちによって起工されたが、工程が断続し、1360年に至ってフラ・タレンティおよびフラ・ジョバンニ・ダ・カンピの監督のもとで鐘塔、聖器室を含む建物の主要部分が完成した。大理石で覆われたファサード(正面)は14世紀初頭に着工されたが、下部の約半分を終えた段階で工事が中断、1456~70年にアルベルティのデザインをもとに完成をみた。下部の中央玄関と中段のコーニス(軒蛇腹)から上の部分(ただし右側の渦形装飾は20世紀初頭の施工)がアルベルティに帰される。三廊式の堂内はゴシック固有の尖頭(せんとう)アーチを支える積柱の配列やリブ交差穹窿(きゅうりゅう)の連続構成によって、調和的に空間が整えられている。聖堂内の彫刻や絵画には、建物と同様に、傑出した作品が多い。聖器室の壁面に掲げられたジョットの板絵『キリスト十字架像』、左側壁面に描かれたマサッチョの『聖三位(さんみ)一体』、ゴンディ家礼拝堂に掲げられたブルネレスキの木彫『キリスト十字架像』、アプスの壁面を埋め尽くすギルランダイヨの『聖母マリア物語』がよく知られている。また、壁画に暗緑色の顔料が用いられた通称「キオストロ・ベルデ」(緑の回廊)は1350年に完成、15世紀初期の画家たちによって装飾が行われたが、そのうちウッチェロの『ノアの大洪水』がもっとも重視される。ただしこの作品は壁面から取り外され、現在僧院食堂に保管されている。なお、この聖堂のあるフィレンツェの歴史地区は、1982年に世界遺産の文化遺産として登録されている(世界文化遺産)。
[濱谷勝也]
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