動物を捕獲するわな(罠)の一種。人類が考案した種々な罠のうちで,落し穴は最も一般的なものであり,ほとんど世界中で用いられていた。とりわけアフリカでは種々の対象動物に合わせて,大きさ・しかけなど変化に富むものがつくられていたことが民族誌の記述によって知られる。落し穴は動物が出られないように十分な深さに掘られたもの以外に,幅の狭い溝形につくって動物がはさみこまれるようにしたもの,底にとがった棒を立てたもの,格子を組んで動物の四肢の自由を奪うもの,どんでん返しの蓋のついたものなど,さまざまなしかけが考案されていた。落し穴が発明された時期ははっきりしないが,後期旧石器時代にはマンモスなどの大型動物の捕獲に用いられたと推定されている。日本では横浜市霧ヶ丘遺跡の発掘以来,縄文時代の落し穴とみられる穴が,おもに東日本各地で発見されている。多摩丘陵では底に棒を立てた楕円形のものが縄文時代早期に多くつくられ,北海道では幅の狭い溝形のものが縄文中~後期に多く用いられた。これらの落し穴は,けもの道に沿ってつくられただけでなく,一定の間隔で多数並べてつくられたものもあり,未開狩猟民が行っているように,穴と柵を交互につくってそこへ動物を追い込む狩猟も行われたのであろう。このように古い歴史をもつ落し穴は,第2次大戦後まで西日本各地で主としてイノシシを捕らえるために用いられていたが,現在では使用がとだえたらしい。
執筆者:今村 啓爾
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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