シェンク対アメリカ合衆国裁判(読み)シェンクたいアメリカがっしゅうこくさいばん(英語表記)Schenck v. United States

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 の解説

シェンク対アメリカ合衆国裁判
シェンクたいアメリカがっしゅうこくさいばん
Schenck v. United States

1919年,アメリカ合衆国最高裁判所がアメリカ合衆国憲法修正第1条の保障する言論の自由について,社会にとって「明白かつ現在の危険」を有する発声または活字にされたことばは制限されうるとの判断を示した裁判。
第1次世界大戦中の 1917年,防諜法によって,アメリカ陸軍・海軍の作戦遂行や作戦成功を妨げる,あるいは敵の作戦成功を促す意図で,虚偽の情報発信や発言をすること,アメリカ陸軍・海軍において不服従,背信行為反乱,任務拒否を故意に引き起こす,または引き起こそうとすること,国による徴兵活動を故意に妨害すること,などで軍務または国に被害を及ぼすことは戦時中には違法行為であると定められた。徴兵制度に反対していたアメリカ社会党の総書記長チャールズ・T.シェンクは,兵役拒否を呼びかけるちらしを約 1万5000枚配布した。その後シェンクは防諜法違反の容疑で逮捕され,三つの訴因有罪となり,各訴因について 10年の禁固刑を言い渡された。1919年1月9日に最高裁判所で口頭弁論が行なわれ,シェンクの弁護団は,防諜法は違憲であり,シェンクは修正第1条の保障する言論の自由を実践したにすぎないと主張した。1919年3月3日,最高裁判所は全員一致で防諜法とシェンクの有罪判決を合憲とする判断をくだした。判事のオリバー・ウェンデル・ホームズは,「通常ならば多くの場所で修正第1条の保障する言論の自由に含まれることばであっても,連邦議会未然に防ぐべき権利をもつような実質的害悪を引き起こすという明白かつ現在の危険を生み出す性格もち,そういう状況で使われる場合,当該言論は禁止対象となりうる」とした。しかし最高裁判所は 1920年代にはこの「明白かつ現在の危険」規則を適用せず,より広範囲に言論を制限できるように以前から構想されていた「悪質(危険性)傾向原則を用いた(Gitlow v. New York, 268 U.S.652〈1925〉)。

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