シダ種子類(読み)しだしゅしるい(英語表記)pteridosperms

日本大百科全書(ニッポニカ) 「シダ種子類」の意味・わかりやすい解説

シダ種子類
しだしゅしるい / 羊歯種子類
pteridosperms
[学] Pteridospermales

古生代後期にみられた裸子植物絶滅群のうち、現生の裸子植物4群(イチョウソテツ、球果、グネツム類)と対比できるような独立した単系統の分類群として認識できる派生的特徴をそなえた群以外のもの、あるいは原始的体制をとどめているものの総称。類縁関係がいまだ明らかでない初期の絶滅群を包括的に含むため、明確な定義はない。グロッソプテリス類やディクロイディウムDicroidiumなど、古生代末から中生代の絶滅裸子植物もシダ種子類とよばれることがあるが、これらはそれぞれ特徴的な生殖器官と体制をもっており、シダ種子類として総括する必要はない。現段階では、胚珠(はいしゅ)(種子)が植物体上に散在し、たとえば針葉樹の球果のように明瞭(めいりょう)かつ特徴的な生殖器官として集約されていない段階のものを、シダ種子類と総称するのが合理的である。

 裸子植物は3億7000万年前のデボン紀後期に前裸子植物の一つを祖先として出現し、その後石炭紀に最初の多様化がみられたが、この間に栄養器官では茎と葉の体制分化と葉の多様化、生殖器官の独立化と集約化、生殖方法の進化などが並行しておこった。シダ種子類とは、この形態学的多様化が進行している段階の植物の総称である。具体的には最初の裸子植物の一つであるベルギー産のモレスネチアMoresnetia以降、主として石炭紀の裸子植物を多く含む。石炭紀には少なくとも四つの科が認められる。もっとも復元が進んでいるメドゥロサ科の植物メドゥロサMedullosaは、高さ数メートルに達し、一見木生シダ状であるが、茎には材を形成し、大形の羽状複葉を生ずる。葉柄は基部で大きく二叉(にさ)分枝したのち、さらにそれぞれが羽状に分裂する。羽状複葉には大形の種子(パキテスタPachytestaとよばれる)が散在する。花粉嚢(のう)は蜂(はち)の巣状の複雑な構造体を形成した。リギノプテリス科は小形の灌木(かんぼく)状で、ラゲノストマLagenostomaとよばれる小形の種子をつける。これらの植物の葉は、種子をつけないときはシダ類の葉と区別できず、ペコプテリスPecopterisスフェノプテリスSphenopterisなどの擬似属名でよばれる。

 葉はシダ型、茎の構造はソテツ型のため、ソテツ状の特徴をもつシダ類としてソテツシダ類Cycadofilicesとよばれたこともあったが、現在では種子を有することが明瞭になったためこの名は使用されない。

 石炭紀に多様化したシダ種子類を祖先として、中生代から現在にまで至るさらに多様な裸子植物が分化した。いまだに不明である被子植物の祖先もまた、多様なシダ種子類のあるものから分化した可能性が高い。シダ種子類は、種子植物全体の進化史を明らかにする上で重要な役割を果たした群であるが、その実体の理解はまったく不十分である。

[西田治文]

『西田治文著『植物のたどってきた道』(1998・日本放送出版協会)』『西田誠編、進化生物学研究所・東京農業大学農業資料室共同企画『進化生研ライブラリー4 裸子植物のあゆみ――ゴンドワナの記憶をひもとく』(1999・信山社)』

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改訂新版 世界大百科事典 「シダ種子類」の意味・わかりやすい解説

シダ(羊歯)種子類 (しだしゅしるい)
seed ferns

裸子植物の絶滅綱Pteridospermopsida。葉はシダ型の羽状複葉だが,繁殖器官として胞子囊ではなく種子を葉につける。種子植物の出発点となる植物で,古生代後期に大発展をとげた。中生代に一部を残したが,大部分は古生代末に絶滅したと考えられている。繁殖器官をつけない葉ではシダ類と区別がつかず,両者を合わせてシダ状葉fern like frondsとしてペコプテリスPecopteris,スフェノプテリスSphenopterisなどの形態属が使用されている。種子は大胞子葉につくが,石炭紀においては胞子葉が集合して球果をつくることはなく,球果をつくった小葉類や有節類とは明りょうに別系統であることを示している。ソテツ型の茎とシダ型の葉をもつことからソテツシダ類とも呼ばれたが,現在ではシダ型の葉に種子をつけた植物という意でシダ種子類の名が使用されている。デボン紀末にアルカエオスペルマArchaeospermaと名づけられた最初の種子が発見報告されたが,これ以外は全部石炭紀以降に出現した。

 幹の構造により真正中心柱型のリギノプテリス目Lyginopteridalesと,多条中心柱型のメデュロサ目Medullosalesに分けられる。化石標本は茎,葉,種子,繁殖器官など別々に発見され,別々の名前(形態属名)がつけられている。リギノプテリス目では茎はヘテランギウムHeterangiumまたはリギノプテリスLyginopteris,葉はスフェノプテリス,雌花器はラゲノストマLagenostoma,雄花器はクロッソテーカCrossotheca,メデュロサ目では茎はメデュロサMedullosa,葉はニューロプテリスNeuropterisまたはアレソプテリスAlethopteris,雌花器はコドノスペルマムCodonospermum,ステファノスペルマムStephanospermum,雄花器はコドノテーカCodonotheca,ウィトレセヤWittleseya,ポトニエアPotonieaなどと呼ばれる。中国や朝鮮ではスフェノプテリス,ペコプテリス,アレソプテリス,エンプレクトプテリスEmplectopterisなどの葉に種子のついた化石が報告されているが,日本では古生代の植物の産地は少なく,種子をつけた葉は発見されていない。

 南半球ゴンドワナ大陸の主要植物であるグロッソプテリス目Glossopteridalesもシダ種子類で,葉はグロッソプテリスGlossopteris,ガンガモプテリスGangamopterisの2形態属にまとめられているが,繁殖器官は種々さまざまで,とても2属にまとめられない。グロッソプテリス類は単葉で2次脈が細脈となり網目をつくる。南半球のグロッソプテリス類に対応するのは北半球のカタイシア植物群のギガントプテリス類Gigantopteridalesで,同じく単葉で3次脈,4次脈が細脈となり網目をつくるのが特徴である。カタイシア植物群では,3回羽状複葉のエンプレクトプテリスが,2回羽状複葉のギガントノクレアGigantonoclea,1回羽状複葉のビコエンプレクトプテリスBicoemplectopterisへ,ついで単葉のトリコエンプレクトプテリスTricoemplectopterisへと進化したことが判明している。エンプレクトプテリスは,葉に種子をつけた化石がたくさん発見されているので,シダ種子類であることは疑いない。単葉は羽状複葉から段階的に分枝を減ずることにより導かれるので,環境が悪化したことを意味している。南半球の単葉グロッソプテリス類は寒冷気候が原因となって出現し,カタイシア植物群の単葉ギガントプテリス類は大陸化による乾燥気候が原因となって出現したものと考えられている。グロッソプテリス類もギガントプテリス類も単葉を示し,新生代に栄えた花の咲く被子植物の祖先系と考えている学者もある。
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百科事典マイペディア 「シダ種子類」の意味・わかりやすい解説

シダ(羊歯)種子類【しだしゅしるい】

ソテツシダ類とも。種子植物の祖先とされる植物。石炭紀二畳紀に栄えたが,出現はデボン紀後期で,絶滅はジュラ紀前期と考えられている。外観はシダ植物に似るが,種子をつくる点で異なる。

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世界大百科事典(旧版)内のシダ種子類の言及

【ソテツ(蘇鉄)】より

…雄花はへら状,オール状の小胞子葉(おしべ)が花軸上に密生して球花をつくり,小胞子葉の裏側一面に小胞子囊を密生する。胚珠は3層の珠皮で包まれ,二畳紀のシダ種子類,パキテスタPachytestaのそれと同型で,ソテツ類がシダ種子類の後裔(こうえい)であることを示唆している。 幹は直立して十数mに達するものや,地中に埋もれ地表に数十cm顔を出すものなどがある。…

【裸子植物】より

…この考えは平瀬作五郎(1896),池野成一郎(1896)によるイチョウとソテツの精子の発見により支持され,ポトニエH.Potoniéはソテツシダ類の存在を推定した(1899)。その存在をシダ種子類として実証したのが,オリバーF.W.OliverとスコットD.H.Scott(1903)である。ここにおいて裸子植物の系統分類学的位置が確定した。…

※「シダ種子類」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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