ヘーゲル左派に属するドイツの哲学者。本名はシュミットJohann Kaspar Schmidtで,彼のおでこ(シュティルン)が大きなことから付けられたあだ名を筆名にしたと言われる。バイロイトに生まれ,ベルリン大学でヘーゲルやシュライエルマハーの講義を聴く。彼はL.A.フォイエルバハの〈人間〉も,B.バウアーの〈自己意識〉もともに〈人間なるもの〉という抽象体にすぎないと批判し,〈唯一者〉としての〈我〉こそ,普遍化されない単独者であると説いて,その所有(自分のものにすること)を,ラディカルな文体で主張した。主著《唯一者とその所有》(1845)で,彼は一躍人々の注目と非難の的となったが,1848年の革命の敗北とともに世間から忘れられ,極度の貧困の内に病死した。なお,《唯一者とその所有》は,辻潤により1920年には同題でその部分訳が,21年には《自我経》との題で完訳がなされている。ヘーゲル批判者であるヘーゲル左派が,ヘーゲルと同じ〈本質〉概念に依拠していることを暴露した点で,彼はヘーゲル主義の限界を超えて,実存主義の先駆者という意味をもつ。〈個的人間としての個人は屑とみなされるのに,普遍的人間,人間なるものはうやうやしく奉られる〉という言葉が彼の哲学を要約している。マルクス,バウアー,M.ヘスとともに《ライン新聞》(1842-43)にも参加したが,彼の立場と文体は異色であって,マルクス,エンゲルスからは一面的な批判をうけた。政治的には,過激なアナーキズムの立場をとり,大きな影響を残した。
→ヘーゲル学派
執筆者:加藤 尚武
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ヘーゲル左派に属するドイツの哲学的文筆家。10月25日バイエルンのバイロイトに生まれる。本名ヨハン・カスパール・シュミットJohann Kaspar Schmidt。「おでこのマックス」(マックス・シュティルナー)は、あだ名でペンネーム。不遇のなか、ベルリンにおいてF・エンゲルスや急進派のブルーノ・バウアーやその弟のエドガーEdgar Bauer(1820―1886)らと交わり、1845年に主要著作『唯一者とその所有』を出版する。ここにおいて、国家・教会・神・道徳およびそれらに関する諸秩序、それに人間性という概念等は実体のない亡霊にすぎないと論断した。そして自らは、頭の中だけに存在するこれら精神の産物に煩わされることなく、自らにとって唯一無二である自分自身をみいだし、これを確固として所有し、この確固たる自分自身をのみ生きると宣言する。徹底した個人主義を説いたこの著作によって一躍名声を博す。だが、それもつかのま、1848年のドイツ三月革命とともに忘れさられて、不遇のうちに、1856年6月26日ベルリンにて世を去る。19世紀終盤以後、彼はニーチェの超人思想や実存主義等との連関においてふたたび注目されるに至る。
[高山 守 2015年2月17日]
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…したがってそれは異なった個性の並存という社会秩序への志向を暗に含む。これに反してエゴティズムが極端になると,M.シュティルナーが主張したように,自分自身の自我のほかに実在するものは何もなく,世界は自分のためだけに存在するにすぎない。このようにエゴティズムの極限は社会秩序への志向をまったく欠いているので,その極限の形態は個人主義と完全には重ならない。…
※「シュティルナー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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