日本大百科全書(ニッポニカ) 「ショック」の意味・わかりやすい解説
ショック
しょっく
shock
多彩な原因が血行動態に強く作用することによって、全身の血液循環が急性に障害された状態をいい、とくに重要臓器や組織の末梢(まっしょう)微小循環に障害がおこると病的状態となる。ショックは、その病像の多彩さのゆえに、古くからさまざまな分類がなされてきているが、そのおもなものを列記すれば次のとおりである。デービスH. Davisは1957年、発生機転から、血液原性ショック、神経原性ショック、血管原性ショック、心原性ショックの四つに分け、ムーアF. Mooreは59年、臨床的な原因から、出血性ショック、創傷性ショック、手術性ショック、敗血症性ショックの四つに分け、マクレーンJ. Mcleanは72年、血行力学的診断を基に、低血量性ショック、心原性ショック、末梢のプーリング(うっ血)、細菌性ショックなどに分けた。
ショックが発生すると、まず交感神経系緊張、細動脈収縮の状態がおこり、しだいに中枢神経、心、腎(じん)、肺などの機能障害を伴ってくる。また、感染性ショックの場合には、ショック状態発生前後に、心拍出量増大、代謝亢進(こうしん)の状態を認めることが多い。ショック症状としては、めまい、失神、無感動、虚脱などがあり、ショックの原因や誘因となった所見(出血、外傷など)も認められる。また、他覚的徴候としては、皮膚の蒼白(そうはく)、精神の不安状態、発汗、反射遅延がみられ、さらに、血圧低下と脈圧減少、脈拍の頻数微弱、呼吸数の増加、ついで減少、体温低下、四肢厥冷(けつれい)、毛細血管の再充満遅延、筋力低下、反射遅延などがみられる。
ショックの診断の際には、ショックを発生する諸原因(出血、脱水、外傷、心疾患、感染、過敏症、薬剤投与、内分泌機能、血管疾患など)を問診や病状経過などによって推測し、ついで、侵襲に対して、生体が前述のような反応を惹起(じゃっき)することを推測することが必要である。ショック状態が完成すれば、皮膚の蒼白チアノーゼ、四肢の厥冷、精神不安、冷汗、脈拍の頻数微弱、血圧の低下、脈幅の減少、反応低下、尿量減少などの所見がみられる。また、このような顕著なショック症状がおこってから処置を加えても、生命を救うことは容易でない。むしろ、生体に加えられた侵襲の大きさと種類、生体の初期の反応(いわゆるショック前状態)などから事前にショック発生を予測し、適正な処置を加えることが望ましい。
[船尾忠孝]