翻訳|Lassa fever
1969年にナイジェリア北東部のラッサ村の病院(ラッサ総合病院)で、出血熱様疾患の患者が発生し、その病院の医療従事者も同様の疾患にかかって死亡しました。その時にはじめて分離されたウイルスがラッサウイルスです。この村の名前がラッサ村であったことから、ラッサ熱と命名されました。
ラッサ熱の流行地は西アフリカで、そこでは毎年数十万人の人がラッサウイルスに感染し、正確な数は不明ですが多くの人が死亡していると考えられています。また、現在までに20人を越える人が流行地以外の地域でラッサ熱を発症しています。その地域の多くはヨーロッパですが、米国や日本でも輸入感染例としてのラッサ熱患者の発生が確認されています。
ラッサウイルスの
西アフリカに滞在する場合には、ネズミなどが生活圏に入り込まないように衛生環境を整えることが、ラッサウイルス感染を予防するうえで大切です。
潜伏期間は5~21日です。症状は、発熱、
臨床症状だけでウイルス性出血熱を診断することは難しく、ウイルス抗原およびウイルスに対する特異的抗体検出によるウイルス学的検査に基づいて診断を下すのが基本です。
治療は、対症療法(呼吸循環動態の維持、輸液・輸血、電解質補正など)が基本ですが、抗ウイルス剤のひとつであるリバビリンが、ラッサウイルスの増殖を抑制することが実験的に確認されています。発症早期にその薬剤が投与されれば治療効果を期待できます。
日本の感染症法では、ラッサ熱は1類感染症に分類され、患者さんの治療は特殊隔離病室で施されます。
西條 政幸
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
西アフリカの熱帯降雨林地帯の風土病的なウイルス性出血熱(流行性出血熱)の一つで、1969年にナイジェリア、リベリア、シエラレオネで流行し、確認された。同年1月ナイジェリア北東部のラッサLassa村で流行の第一報があり、ラッサ熱と名づけられた。アレナウイルス群に属するラッサウイルスによって発病する。このウイルスはサバナにすむネズミが保有し、尿とともに排出される。ヒトへの感染はウイルス汚染物から皮膚創傷を介するか、または患者との濃厚接触(上気道からの吸入感染)による。日本では1976年(昭和51)指定伝染病となり、1977年旧厚生省により、マールブルグ熱、エボラ出血熱とともに国際伝染病と定義された。現在は1999年(平成11)に施行された感染症予防・医療法(感染症法)により1類感染症に分類され、検疫法により検疫感染症(検疫伝染病)に指定されている。
潜伏期は通常7~16日。発病は比較的緩やかで、発熱、悪寒、筋肉痛などの非特異的症状で始まる。定型例では発病後3~6日ごろから高熱を呈し、咽頭(いんとう)痛、胸痛、腹痛、下痢がみられる。発疹(はっしん)は色の薄い斑丘疹(はんきゅうしん)である。熱型は多様で、40℃前後の高熱が数時間続いたあと平熱に戻るといった1日の変動が著しい熱型を繰り返す場合(弛張(しちょう)熱)と、高熱が継続してみられる場合(稽留(けいりゅう)熱)がある。重症例では咽頭扁桃(へんとう)に小水疱(すいほう)や潰瘍(かいよう)を伴う浸出性の炎症がみられる。第2週目に死亡する例が多く、強い中毒症状およびショック状態に陥る。抗ウイルス薬としてリバビリンが用いられるほか、対症療法として十分な補液と中毒症状に対して副腎(ふくじん)皮質ホルモンの投与を行う。
[松本慶蔵]
ラッサウイルスによる全身性の急性熱性伝染病。1969年ナイジェリアのラッサ地区で初めて確認されたのでこの名があるが,西アフリカでは風土病的に存在する。院内感染しやすく致命率の高いところから注目され,日本ではマールブルグ病およびエボラ出血熱とともに国際伝染病として扱われ,指定伝染病とされている。ラッサウイルスはサバンナ地帯にすむチチネズミPraomys natalensisの唾液や尿から排出され,ヒトへの感染は経皮(傷口)感染を主とするがエーロゾル感染(飛沫または飛沫核による空気伝染)もある。潜伏期間は3~17日(平均4~10日),ふつう発熱,筋肉痛などのインフルエンザ様症状で始まり,高熱とともに咽頭痛,咳,腹痛や下痢などを伴い,重症では全身に出血傾向を生じ,ショック状態で7~14病日に死亡するが,不顕性感染や軽症型もある。確定診断はウイルス分離(血液,のどの粘液,尿)または血中抗体の検出によるが,感染力が強いので検査は陰圧密閉したグローブボックス内で行わねばならず,患者もまた高度安全病棟で治療する。回復期患者血漿の早期投与が唯一の治療法で,ほかは対症療法しかない。
→伝染病
執筆者:今川 八束
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