日本大百科全書(ニッポニカ) 「ラッサ熱」の意味・わかりやすい解説
ラッサ熱
らっさねつ
Lassa fever
西アフリカの熱帯降雨林地帯の風土病的なウイルス性出血熱(流行性出血熱)の一つで、1969年にナイジェリア、リベリア、シエラレオネで流行し、確認された。同年1月ナイジェリア北東部のラッサLassa村で流行の第一報があり、ラッサ熱と名づけられた。アレナウイルス群に属するラッサウイルスによって発病する。このウイルスはサバナにすむネズミが保有し、尿とともに排出される。ヒトへの感染はウイルス汚染物から皮膚創傷を介するか、または患者との濃厚接触(上気道からの吸入感染)による。日本では1976年(昭和51)指定伝染病となり、1977年旧厚生省により、マールブルグ熱、エボラ出血熱とともに国際伝染病と定義された。現在は1999年(平成11)に施行された感染症予防・医療法(感染症法)により1類感染症に分類され、検疫法により検疫感染症(検疫伝染病)に指定されている。
潜伏期は通常7~16日。発病は比較的緩やかで、発熱、悪寒、筋肉痛などの非特異的症状で始まる。定型例では発病後3~6日ごろから高熱を呈し、咽頭(いんとう)痛、胸痛、腹痛、下痢がみられる。発疹(はっしん)は色の薄い斑丘疹(はんきゅうしん)である。熱型は多様で、40℃前後の高熱が数時間続いたあと平熱に戻るといった1日の変動が著しい熱型を繰り返す場合(弛張(しちょう)熱)と、高熱が継続してみられる場合(稽留(けいりゅう)熱)がある。重症例では咽頭扁桃(へんとう)に小水疱(すいほう)や潰瘍(かいよう)を伴う浸出性の炎症がみられる。第2週目に死亡する例が多く、強い中毒症状およびショック状態に陥る。抗ウイルス薬としてリバビリンが用いられるほか、対症療法として十分な補液と中毒症状に対して副腎(ふくじん)皮質ホルモンの投与を行う。
[松本慶蔵]