ジカウイルス感染症(読み)ジカウイルスカンセンショウ(その他表記)Zika virus infection

デジタル大辞泉 「ジカウイルス感染症」の意味・読み・例文・類語

ジカウイルス‐かんせんしょう〔‐カンセンシヤウ〕【ジカウイルス感染症】

ヤブカ属の蚊によって媒介されるジカウイルスによる感染症アフリカ中南米。アジア太平洋地域で発生。症状は軽度の発熱発疹結膜炎関節痛筋肉痛・頭痛・倦怠感など。ジカ熱ジカウイルス病。→先天性ジカウイルス感染症

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知恵蔵 「ジカウイルス感染症」の解説

ジカウイルス感染症

ジカウイルスによる感染症。蚊が媒介する。蚊に刺された人が発症した場合を「ジカウイルス病」、妊娠中の感染者の胎児が先天的な障害を持って生まれる場合を「先天性ジカウイルス感染症」と呼ぶことがある。また、発症すると発熱することがあるため、「ジカ熱」と呼ばれることもある。
感染しても約8割が自覚症状のない不顕性感染であるとされているが、症状が出る場合は、発熱、発疹、関節痛、結膜充血などがみられる。また、過去の流行時には、ジカウイルス感染症からギラン・バレー症候群やその他の神経症状を呈した症例もあった。健康な成人が感染しても死に至ることはまれだが、基礎疾患などがある場合は注意が必要である。妊婦が感染すると、胎児にもうつって流産死産の原因になったり、先天的に頭蓋骨と脳の小さい小頭症の障害を持って生まれたりする可能性が示唆されている。ジカウイルス感染と小頭症との関連については、2016年2月に小頭症の胎児からウイルスの痕跡が見つかったという研究が発表された。性行為による2次感染の可能性も指摘されており、WHO(世界保健機関)は、流行地域に住む男性及び流行地域から帰国した男性に妊娠中のパートナーがいる場合は、性行為の自粛またはコンドームの使用を推奨する暫定的なガイダンスを出した。
ジカウイルスを媒介する蚊として現在確認されているのは、ネッタイシマカヒトスジシマカである。ヒトスジシマカは日本でも秋田県及び岩手県以南に生息しているが、16年2月末現在で、国内感染例はまだ見つかっていない。しかし、中南米・カリブ海諸国での流行によりブラジルで小頭症の新生児が多数報告されていることを受け、厚生労働省は16年2月5日に、ジカウイルス感染症を感染症法に基づく第4類感染症に指定。同月15日から、診断した医師に届け出が義務付けられることとなった。
過去に発生が確認されている地域は、アフリカ、中央・南アメリカ、アジア太平洋地域と低緯度の地域を中心に広範にわたる。16年夏にリオ五輪を控えるブラジルは、保健省が国家緊急事態宣言を発令し、蚊の駆除等の対策に当たっている。なお、WHOも、16年2月1日に「国際的に懸念される公衆の保健上の緊急事態」(PHEIC)を宣言し、小頭症及び神経障害の集団発生に関する調査、研究に取り組んでいる。
予防対策としては蚊に刺されないようにすることが最も重要で、流行地域では、肌の露出をなるべく抑え、虫よけスプレーなどを使って蚊を避ける。
感染した場合の潜伏期間は2~12日。発熱等の症状が出ても軽症で、1週間以内にだいたい治る。
なお、16年2月25日に、厚生労働省は感染者を確認したと発表。同省によれば、患者は流行地であるブラジルから帰国した10代の高校生で、国内で感染したものではない。

(石川れい子 ライター/2016年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ジカウイルス感染症」の意味・わかりやすい解説

ジカウイルス感染症
じかういるすかんせんしょう
Zika virus infection
Zika virus disease

ヤブカ属の蚊(か)(ネッタイシマカやヒトスジシマカ)によって媒介されるジカウイルス(Zika virus:ZIKV)に感染することで発症する感染症。ジカ熱とよばれることもある。ジカウイルスはデングウイルスと同じフラビウイルス科に属するウイルスで、名前はウガンダのジカ(Zika)の森林に住むサルで初めて確認されたことに由来する。おもにはジカウイルスをもつ蚊に刺されることで感染するが、輸血や性行為によって感染することもある。ミクロネシアやポリネシアで大流行したほか、近年では南米のチリやブラジルおよびコロンビアで流行がみられた。日本では2013年(平成25)以降では数例の感染が確認されたが、これらは渡航時に海外で感染したもので国内での感染例はない。ジカウイルス感染症は日本の感染症法においては4類感染症に指定されており、ジカウイルス病と先天性ジカウイルス感染症に病型分類されている。

 症状はデング熱に似て、3~12日の潜伏期間を経て発熱、発疹(ほっしん)、結膜充血、頭痛、関節痛、筋肉痛などが数日(4~7日程度)続く。症状の程度はデング熱より軽いが、免疫力が極端に低下している場合などではまれに死に至ることもある。ただし不顕性感染(感染しても症状が現れない)が80%を占めることから、感染に気づかないことも多い。

 ほかに、消化器症状や運動麻痺(まひ)を起こすギラン・バレー症候群や神経症状を伴う症例も報告されている。ブラジルの流行では感染した妊婦から胎児に感染し、出生児に小頭症が多発して問題となった。

 ジカウイルス感染症に有効なワクチンはなく、また治療も解熱鎮痛薬の投与など対症療法にとどまる。そのため感染予防は、なにより流行地で蚊に刺されないようにすることで、またとくに妊婦は流行地への渡航を控えるようにする。

[編集部 2017年8月21日]

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