ロシア生れのユダヤ人スタビスキーSerge Alexandre Stavisky(1886ころ-1934)がひきおこしたフランスの疑獄事件。1933年12月末,バイヨンヌの公設質屋を舞台とするスタビスキーの詐欺事件が報道され,時の植民地相ダリミエら数人の政界人やジャーナリストが事件に関係していることが判明した。この詐欺事件そのものはそれほど大規模なものでもなく,直接の被害者も保険会社などの法人で大衆ではなかったが,大不況という状況のもと,事件を議会主義と急進社会党政府に対する攻撃材料に利用しようとするアクシヨン・フランセーズの扇動は功を奏し,34年1月末,事件の処理を誤ったショータン政府を倒壊させた。右翼は後継首相ダラディエに対しても協力を拒否し,2月6日夜国会周辺で流血の大騒擾事件をおこしてダラディエを辞職させ,ドゥーメルグが右翼的色彩の強い国民連合内閣を組織した。この政治危機は左翼に大衝撃を与え,人民戦線運動の出発点となった。
執筆者:山極 潔
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1930年代にフランスの第三共和政を揺さぶる政治的激動の口火を切った詐欺事件。ロシア生まれのユダヤ系帰化人スタビスキーSerge Alexandre Stavisky(1886―1934)はパリの暗黒街に出没する詐欺常習犯であったが、1931年南フランスのバイヨンヌ市の公設質屋を舞台に不良債券を発行して巨利を得た。33年末に不正が発覚しスタビスキーは逃亡したが、翌年1月8日シャモニーの山荘で死体で発見された。事件はありふれた詐欺事件であったが、バイヨンヌ市長兼代議士ガラ、ショータン内閣の植民地相ダリミエら与党急進社会党の政治家が事件に巻き込まれていたこと、スタビスキーの死因を自殺とする警察発表への疑惑などにより、右翼の反政府宣伝に絶好の口実を与え、一大疑獄事件にまで発展した。極右諸団体による連日の街頭デモにショータン内閣はついに総辞職したが、さらに次のダラディエ内閣の不手際も加わり、34年2月6日夜、死者十数名を出す右翼騒擾(そうじょう)事件を起こした。こうして事件は、30年代の経済不況と政治不安を背景に第三共和政を揺さぶるいくつかの事件の連鎖を生んだ。
[平瀬徹也]
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…しかし,それが政治的立場を超えた知識人の統一運動として定着するのは,34年の2月6日事件をまたなければならない。フランスでは33年以来のスタビスキー事件を通じて政界の腐敗が危機感を煽りたてていたが,ナチスによるドイツ制覇に連動して,2月6日極右派が民衆を扇動し共和制打倒の一大騒擾事件をパリで引き起こしたのである。これに対して労働組合をはじめとする左翼勢力は共和制擁護のためゼネストをもって応え危機を一応脱しはしたが,この事実は多くの知識人に危機意識を抱かせ,人類学者ポール・リベ,物理学者ランジュバン,哲学者アランの提唱により3月に〈反ファシスト知識人監視委員会〉が組織され,ジッド,マルローはじめ,アラゴン,ニザン,ブルトン,ゲーノ,R.マルタン・デュ・ガール,バンダら,1200名の知識人が参加したのであった。…
※「スタビスキー事件」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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