起訴後に勾留されている刑事被告人を釈放する手続き。被告本人や弁護人が請求する。裁判所が逃亡や罪証隠滅の恐れなどを考慮し、検察官の意見を聞いた上で可否を判断する。検察側、弁護側とも不服を申し立てられる。裁判所が保釈を認めた場合、犯罪の性質や情状、保有資産を勘案して保釈保証金の額を決める。納付されなければ保釈されない。住居制限や事件関係者との接触禁止など条件が付く場合もあり、違反すれば保釈が取り消されることがある。
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公訴が提起され,未決勾留中の被告人を,保証金(保釈保証金)の納付を条件に釈放する制度。逃亡,罪証隠滅を防ぐためには被告人を勾留すればよいが,勾留は人身の拘禁というきわめて大きい不利益を課するものであるから,拘禁しているのと同じ効果があげられる別の方法があれば,それを用いたほうがよい。保釈は,このような見地から,保証金の没取という経済的威嚇によって出頭の確保と罪証隠滅の防止をはかったうえで,勾留自体は取り消さずにその執行のみを停止し,被告人をとりあえず拘禁から解放するものであって,英米法で発達した制度である。日本では,第2次大戦前にも保釈の制度はあったが,保釈するか否かは裁判所の裁量にゆだねられ,限られた役割しか果たしていなかった。これに対して,戦後制定された現行刑事訴訟法は,アメリカ法の影響を受けて,後述の〈権利保釈〉の制度を採用し,保釈を大幅に拡充した。しかし,その後の改正でこの〈権利保釈〉の例外が拡大され,保釈の範囲がしだいにせばめられている。
現在の刑事訴訟法によれば,被告人,弁護人,一定の近親者などは,保釈の請求ができる(88条)。保釈の請求があったときは,裁判所は,例外にあたる場合を除いて,必ず被告人を保釈しなければならない(89条)。すなわち,被告人には保釈を受ける権利があり,請求すれば保釈されるというのが原則とされているのであって,これを〈権利保釈〉(必要的保釈,当然保釈)という。ただし,現在は,この権利保釈の原則には,かなり広い例外が設けられている。すなわち,(1)一定の比較的重い罪を犯したとき,(2)一定の重い前科があるとき,(3)常習として一定のかなり重い罪を犯したとき,(4)罪証隠滅のおそれのあるとき,(5)いわゆる〈お礼参り〉をするおそれのあるとき,(6)住所・氏名が不明のときは,保釈されない。禁錮以上の刑に処する判決の宣告があった後も,権利保釈は受けられない(344条)。もっとも,これらにあたる場合も,後述の職権保釈は受けうる。保釈制度の趣旨からは,逃亡や証拠隠滅のおそれが強い場合には,保釈を認めるわけにはいかず,これを権利保釈の例外とせざるをえない。しかし,現行法の例外は相当広く,とくに(4)(5)は再犯防止という刑事政策的考慮による面が強く,保釈にこのような考慮を入れることには批判が強い。(6)にも,黙秘権に反しないかという疑問がある。
以上は,権利保釈の場合であるが,これが認められない場合や,請求がなかった場合であっても,裁判所は適当と認めるときは,職権で保釈を許すこともできる。これを〈職権保釈〉という(90条)。裁判所が保釈を許す場合には,犯罪の性質・情状,有罪の可能性の程度,被告人の性格・資産を考慮して,出頭を保証するに足りる額の保証金を定める(93条)。この金額は年々高額化する傾向にあり,1980年では,100万円以上300万円未満が30%を占め,300万円以上も1.8%ある。ちなみに,アメリカ合衆国では,保証金会社があり,保証金を融資する反面,被告人の監視をする役割を果たしている。保釈を許すときは,住居制限等の条件を付しうる。保証金を納付した後でなければ保釈されないが,保証人の保証書などでこれに代えることが許されることもある(94条)。保釈中に,召喚に対する不出頭,逃亡や罪証隠滅またはそのおそれ,お礼参り,保釈条件の違反などの事実が生じたときは,保釈を取り消し,保証金の一部または全部を没取することができる(96条)。
なお,1980年には,勾留された被告人のうち,地方裁判所で37.7%,簡易裁判所で16.9%の者が,それぞれ保釈になっている。
→勾留
執筆者:平川 宗信
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保証金を納付させて、裁判所が被告人の勾留(こうりゅう)の執行を停止することをいう(刑事訴訟法88条以下)。被疑者に対する保釈制度はない(同法207条1項)。勾留されている被告人またはその弁護人、法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族もしくは兄弟姉妹は、保釈の請求をすることができる(同法88条)。保釈の請求があったときは、次の場合を除いては、これを許さなければならない(必要的保釈)。すなわち、被告人が、(1)死刑または無期もしくは短期1年以上の懲役もしくは禁錮にあたる罪を犯した者であるとき、(2)前に死刑または無期もしくは長期10年を超える懲役もしくは禁錮にあたる罪につき有罪の宣告を受けたことがあるとき、(3)常習として長期3年以上の懲役または禁錮にあたる罪を犯した者であるとき、(4)罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき、(5)被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者もしくはその親族の身体もしくは財産に害を加えまたはこれらの者を畏怖(いふ)させる行為をすると疑うに足りる相当な理由があるとき、(6)被告人の氏名または住居がわからないとき(同法89条)、である。
以上の請求による権利保釈のほかに、職権による保釈の制度がある。すなわち、裁判所は、保釈された場合に被告人が逃亡しまたは罪証を隠滅するおそれの程度のほか、身体の拘束の継続により被告人が受ける健康上、経済上、社会生活上または防御の準備上の不利益の程度その他の事情を考慮し、適当と認めるときは、職権で保釈を許すことができる(同法90条)。この裁判所の考慮事項は、2016年(平成28)の刑事訴訟法改正で明記されたものであるが、実務上すでに確立していた裁量保釈の解釈を明記したものであって、それまでの運用を変更するものではないとされている。また、勾留による拘禁が不当に長くなったときは、裁判所は保釈請求権者の請求により、または職権で、決定をもって勾留を取り消し、または保釈を許さなければならない(同法91条1項)。保釈を許す場合には、保証金額を定めなければならない。保証金額は、犯罪の性質および情状、証拠の証明力ならびに被告人の性格および資産を考慮して、被告人の出頭を保証するに足りる相当な金額でなければならない。また保釈を許す場合には、被告人の住居を制限し、その他適当と認める条件を付することができる(同法93条)。保釈を許す決定は、保証金の納付があった後でなければ、これを執行することができない(同法94条1項)。召喚を受けて正当な理由なく被告人が出頭しないなど保釈取消し事由にあたる場合には、決定をもって保釈は取り消され、保証金は没取(没収と区別するために実務上「ぼっとり」と読んでいる)されることがある(同法96条1項・2項)。保釈された者が、刑の言渡しを受けその判決が確定したのち、執行のため呼出しを受け正当な理由がなく出頭しないとき、または逃亡したときは、検察官の請求により、決定で保証金の全部または一部を没取しなければならない(同法96条3項)。禁錮以上の刑に処する判決の宣告があったときは、保釈はその効力を失う(同法343条)。また禁錮以上の刑に処する判決の宣告があったのちは、必要的保釈(同法89条)の規定は、これを適用しない(同法344条)。
2016年の時点で、地方裁判所において終局(第一審)した人員は5万3247人、うち保釈人員は1万1654人で、勾留率(勾留総人員÷終局総人員)76.0%、保釈率(保釈人員÷勾留総人員)28.8%となっている。また、簡易裁判所では終局総人員5856人、うち保釈人員は629人で、勾留率73.1%、保釈率14.7%である(2017年版『犯罪白書』)。
[内田一郎・田口守一 2018年4月18日]
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(土井真一 京都大学大学院教授 / 2007年)
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