血管移植の材料として用いられる人工の血管。人工血管の研究は古くから行われてきたが,今日広く用いられている血管の中膜の弾性繊維を人工的に作製するという意味で,人工血管を発表したのは1952年ブレークモアA.H.Blakemoreが最初である。その後,ナイロン,オルロン,ダクロン,テフロンなどの合成高分子材料を編んだり,織ったりした人工血管,その表面を特殊加工したもの,あるいは不織布人工血管,さらには加工したウシの頸動脈やヒトの臍帯静脈などの生体材料が出現し,今日では少なくとも一定以上の太さの動脈では,人工血管移植は一般的な手術とされている。人工血管の材料としては,長年生体内にあっても物理化学的に変性しないこと,生体反応の少ないこと,などが重要であって,現在はダクロンをメリヤス編みによって縫目のない管状にし,網目から出血しないようにゼラチン処理し,折り曲がらないように蛇腹状のひだをつけたものと,polytetrafluoroethyleneを延伸加工した不織布の人工血管が広く用いられ,膝位までの移植成績は良好であるが,径3mm以下の細い血管では満足できるものではなく,新しい素材の開発が切望されている。
人工血管の表面にはヒトの血管との吻合(ふんごう)部あるいは繊維の間隙を介して新しい内膜が形成され,また外面や繊維間隙にも繊維組織ができて人工血管とよく癒合し,剝離(はくり)しにくくなって器質化され,4~6ヵ月で治癒する。
人工血管移植は,大動脈あるいは体幹の太い動脈の場合に最も成績がよく,四肢に用いる場合には関節をこえて移植することはさけたほうがよい。また,感染に無力な欠点があるので,外傷や感染創における動脈欠損部の補塡(ほてん)にはできるだけ自家静脈を用いるか,手術にくふうをこらして感染のない部分に移植するように努める。
人工血管はすでに多くの臨床例に用いられ,動脈瘤や動脈閉塞の再建に70~80%で満足すべき成績がえられている。しかし,血栓による閉塞や吻合部の縫合不全による破裂,出血,動脈瘤形成なども少なくなく,あらためて人工血管移植適応の再検討,手術技術の改善などがとりあげられている。
執筆者:三島 好雄
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出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
…一方,後者はバイパス血管移植と呼ばれ,多少範囲の広い瀰漫(びまん)性の動脈閉塞に対して行われる。代用血管としては,鎖骨下動脈あるいは腸骨動脈程度までのところでは合成代用血管(人工血管)が,それより末梢で体の運動により移植部位が屈曲するようなところには自家大伏在静脈が用いられている。人工血管はそのまま移植すると編目から相当量の出血があるので,これを防止するために,人工血管をゼラチン処理したり,編目のない不織布の人工血管が用いられている。…
※「人工血管」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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