生没年不詳。2~3世紀ごろ古代ギリシア懐疑派の最後の哲学者。経験主義的医者でもあって、エンペイリコスの名もそれに由来する。彼によれば、論証の前提を確立するために結論が含まれることから、論証の可能性が否定された。ものの隠された本性を知っているとはしない点で独断論を離れ、しかし知識は不可能か、ある信念はもっともらしいか、という問題について判断中止する点でアカデメイア懐疑派とも離れている。アイネシデモスを受けて、経験上のものでありながら時間上明らかでないものの想起的記号と、自然本性上明らかでないものの示唆的記号の分析を展開した。しかし一般に著作に独創性はなく、自ら判断を下さない懐疑的中立性から、先人の哲学説、古代懐疑論を資料として後世に残した功績が大きかった。
[山本 巍 2015年1月20日]
ラテン名セクストゥス・エンピリクスSextus Empiricus。ディオゲネス・ラエルティオスに先行する2世紀のギリシアの哲学者。生没年不詳。懐疑主義の代表者の一人。また〈ホ・エンペイリコス=the Empirical〉という名前の示すように経験を重んずる医学者でもあった。その著書,例えば《ピュロン主義概説(ピュロネイオイ・ヒュポテュポセイス)》などは懐疑主義研究にとっての貴重な資料であるばかりか,広くギリシア哲学研究の重要な資料である。
執筆者:斎藤 忍随
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…彼らはストア主義を独断論として攻撃し,とくに後者は蓋然的知識で満足すべきことを説いた(アカデメイア派ないし新アカデメイア派の語も懐疑論者の代名詞として用いられることがある)。後期にはアイネシデモスやセクストス・ホ・エンペイリコス等が属するが,前者は感覚的認識の相対性と無力さを示す10の根拠を提示したことで知られ,後者は経験を重んずる医者として諸学の根拠の薄弱さを攻撃し,またその著書はギリシア懐疑論研究の主要な資料となっている。近世においては,ルネサンスの豊かな思想的混乱の中で懐疑思想も復活し,伝統的な思想や信仰を批判する立場からも,逆にそれを擁護する立場からもさまざまなニュアンスの懐疑論が主張されたが,その中でもモンテーニュのそれはたんに否定的なものにとどまらず生を享受する術となっている点で,またパスカルのそれはキリスト教擁護の武器として展開されているにもかかわらず作者の意図を越えて人間精神の否定性の深淵を垣間見させてくれる点でそれぞれ注目に値する。…
※「セクストスホエンペイリコス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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