日本大百科全書(ニッポニカ) 「センベーヌ」の意味・わかりやすい解説
センベーヌ
せんべーぬ
Ousmane Sembène
(1923―2007)
セネガルの小説家、映画監督。カザマンス地方の漁民の家に生まれ、小学校中退後、漁民、修理工員、左官などを経験。第二次世界大戦ではフランス軍に徴用された。戦後ダカールに戻り、アフリカ最大の鉄道ストライキに加わった。1948年にフランスに渡り、マルセイユで港湾労働者をしながら文筆活動に入った。白人の深層心理に潜む偽善と人種差別を暴いた『黒い沖仲仕』(1956)、農民解放をテーマとした『おおわが祖国、わがすばらしき民衆』(1957)、鉄道労務者のストライキを描いた『神の森の木々』(1960)など、フランス語による社会主義リアリズムの小説を発表。だが、話しことばはあっても文字をもたず、フランス語の読める同胞のきわめて少ないことから、民衆にも理解される映画作家になるために、1961年モスクワのゴリキー映画研究所に留学して映画技術を学び、1968年の『為替(かわせ)』でベネチア国際映画祭の審査員特別賞を受賞した。ほかに、小説に『不能者』(1973)、『帝国の最期』(1981)、短編集に『ニーワン』(1987)、映画に『エミタイ』(1971)、『ハラ(不能者)』(1974)、『チェド(異端者)』(1976)がある。また女子割礼の風習に立ち向かう女性を描いた『母たちの村』(2004)はカンヌ国際映画祭の、ある視点部門グランプリを受賞した。1984年(昭和59)映画『エミタイ』が日本で初上映され評判をよんだとき、国際交流基金の招きで来日。1989年にも『チェド(異端者)』の上映時にふたたび来日している。
[土屋 哲]
資料 監督作品一覧
ボロム サレ Borom Sarret(1963)
黒人女 La noire de...(1966)
為替 Mandabi(1968)
タアウ Taaw(1970)
エミタイ Emitaï(1971)
ハラ(不能者) Xala(1974)
チェド(異端者) Ceddo(1976)
母たちの村 Moolaadé(2004)
『藤井一行訳『セネガルの息子』(1963・新日本出版社)』▽『藤井一行訳『神の森の木々』(1965・新日本出版社)』▽『片岡幸彦訳『帝国の最後の男』(1988・新評論)』▽『聞き手・小栗康平『アフリカから日本へのメッセージ』(1989・岩波書店)』▽『山本玲子訳『ニーワン――セネガルのこころ』(1990・サイマル出版会)』