サーマッラー(その他表記)Sāmarrā’

デジタル大辞泉 「サーマッラー」の意味・読み・例文・類語

サーマッラー(Sāmarrā)

イラク中北部、チグリス川沿いにある都市。9世紀にアッバース朝首都が置かれた。イスラムシーア派の4大聖廟せいびょうの一つアスカリ廟、高さ36メートルのらせん状のミナレットが残っている。2007年に「サーマッラーの考古学都市」の名称世界遺産文化遺産)に登録されるとともに、フセイン政権崩壊後のスンニー派とシーア派の深刻な対立から、同年、危機遺産にも指定された。

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改訂新版 世界大百科事典 「サーマッラー」の意味・わかりやすい解説

サーマッラー
Sāmarrā’

イラクの首都バグダード北西約110kmのティグリス川左岸に位置する都市。人口12万5000(2003)。その南東方の郊外にあるテル・アッサッワーンTell al-Sawwānの遺跡から近年,前6千年紀のアラバスター製女性小像や前5千年紀の彩文土器が発見されている。アッバース朝時代に第8代カリフムータシムal-Mu`taṣim(在位833-842)によってバグダードからここに政庁が移され,約50年間(836-892)首都として栄えた。現在,シーア派聖地で,第12代イマームムハンマド・アルムンタザルの聖所と,第10代イマーム,アリー・アルアスカリーおよび第11代イマーム,ハサンの墓廟が,アリー・アルハーディー・モスクにある。

 都城址は,1910-14年にヘルツフェルトの指揮のもとにドイツ調査団によって発掘された。遺構としては,カリフ,ムタワッキルが建てたアッバース朝最古の,しかもイスラム最大の規模を誇る煉瓦造の多柱式モスクとそのらせん状ミナレット(マルウィーヤ),アブー・ドゥラフのモスク,世俗建築としてカリフの宮殿邸宅であるジャウサク・アルハーカーニーJawsaq al-Khāqānī,バルクワーラーBalkuwārā,カスル・アルアーシクなどがある。各遺跡から発掘された陶器などの出土遺物は,製作年代がほぼ明らかであるため資料的価値は高い。また,宮殿や邸宅を飾っていたしっくいの腰羽目に表された葡萄唐草など各種の植物文様は,イスラム独特のアラベスクに発展する過程を示して興味深い。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「サーマッラー」の意味・わかりやすい解説

サーマッラー
Sāmarrā'

イラク中央部,サラーフウッディーン県の県都。バグダード北北西約 110km,チグリス川沿岸に位置する。前5千年紀の遺跡が存在するが,町は3~7世紀の間につくられたもの。 836年にアッバース朝 8代のカリフ,ムータシムがバグダードからこの地に遷都,広大な宮殿を建築した。 10代のカリフ,ムタワッキルもイスラム最大といわれるモスク (9世紀) を建てている (→サーマッラーの大モスク ) 。現在は廃虚となっているが,その北端のマルウイーヤのミナレットは,螺旋状をなしていて有名。 892年にカリフのムータミドのときに再びバグダードに遷都され,急速に衰退,1300年頃には廃虚となった。市内には 10~11世紀の預言者の墓を含むシーア派の廟などが残っている。シーア派イスラム教徒の巡礼の中心でもある。洪水調節用の堰があり,水路でサルサール湖に導いている。 2007年考古都市サーマッラーとして世界遺産の文化遺産に登録。人口 21万 4100 (2004推計) 。

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百科事典マイペディア 「サーマッラー」の意味・わかりやすい解説

サーマッラー

イラク中部,ティグリス川左岸にある古都。836年―892年アッバース朝の首都が置かれた。シーア派イマームの墓廟などがあり,シーア派の聖地でもある。8代カリフのムータシムが建てたジャウサクの宮殿,10代カリフのムタワッキルが建てたバルクワーラーの宮殿や大モスクの遺跡がある。

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世界大百科事典(旧版)内のサーマッラーの言及

【メソポタミア】より

…前6千年紀には東シリアのハラフ(ハラフ文化),北イラクのハッスナ(ハッスナ文化)などで,より進んだ村落文化がみられる。わずかに遅れてザーグロスの丘陵のチョガ・マミ,サーマッラー近くのテル・アッサッワーンTell al‐Sawwānなどにサーマッラー文化が成立した。前者は天水農耕成立のための限界降雨量の地域にあり,また後者では天水農耕はまったく不可能であった。…

※「サーマッラー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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