改訂新版 世界大百科事典 「タルマ」の意味・わかりやすい解説
タルマ
François-Joseph Talma
生没年:1763-1826
18世紀末~19世紀初頭のフランスの代表的悲劇役者。1787年コメディ・フランセーズに入り,大革命に際しては革命派にくみし保守派と分裂,共和国劇場を開いたが,99年には同座に復帰した。舞台装置,衣装などを史実に近づけ,悲劇の朗誦法を大げさで技巧的なものから,自然なものへ変革し,先輩ルカンと共に,演出法の近代化に寄与するところが大であった。また役者の肉体表現を重視し,特に怒り,悔恨,悲嘆,狂気などのなまなましい人間感情を,精神,肉体,台詞(せりふ)の3者を融和させて完璧に表出したという。そして偉大な役者に必要なのは一に霊感,二に知性だと主張した。ロマン派演劇の爆発的流行直前,《シャルル4世》の舞台を最後に世を去ったが,当り役はコルネイユ,ラシーヌの代表的悲劇の主役,シェークスピアのハムレット,マクベス,オセロなど。遺稿にルカンの《追想録》序文がある。ナポレオン1世の寵遇を受けたことは有名。
執筆者:鈴木 康司
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報