ダイナモ理論(読み)だいなもりろん(英語表記)dynamo theory

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ダイナモ理論」の意味・わかりやすい解説

ダイナモ理論
だいなもりろん
dynamo theory

地球や太陽など天体のもっている磁場が、その天体内部の電気伝導度の高い流体(太陽の場合は電離した気体、地球の場合は核内の流体鉄、木星の場合は高圧のため金属化した水素、など)の運動による電磁流体相互作用によって発生しているとする理論。発電機(ダイナモdynamo)は、強い磁場の中でコイルを回転させ、電磁誘導によってコイル内に発生した起電力を電流として取り出すもので、運動エネルギーを電磁的なエネルギーに変換する仕組みである。発電で得られた電流の一部を磁場をつくるのに用いれば、もともとは磁場がなくても、この発電の操作を継続することができる。このような仕組みを「自己励起的なダイナモ作用」self-exciting dynamo processという。この考えは、イギリスのJ・ラーモアが、太陽の磁場の成因として1919年にその概要を提案したもので、1950年ごろからのアメリカのエルザッサーWalter M. Elsasser(1904―1991)やイギリスのE・C・ブラードによる地磁気成因論への適用などによって大きな発展をみた。

 ダイナモは基本的に三次元の非線形問題であり、簡単な解は存在しない。このため、コンピュータの能力が十分に高くはなかった1960~1970年代にはダイナモ方程式系をそのまま解くことは不可能であった。そこで、さまざまな仮定に基づく単純化を方程式のいくつかの項に施して問題を解きやすくすることが試みられ、ある程度の成功を収めた。速度と磁場の相互作用の一部を磁場に比例する形に書き、その比例定数アルファで表したことから、これらのモデルはしばしばアルファ効果ダイナモとよばれる。

 しかしコンピュータの能力は着実に増大し、1995年にはアメリカのグラツマイヤーGary A. Glatzmaier(1949― )とロバーツPaul Roberts(1929― )、および日本の陰山聡(あきら)(1965― )と佐藤哲也(1939― )の二組が、ほぼ同時にこうした仮定をまったくおかずにダイナモの方程式の厳密な解を得ることに成功した。その後は各国の多くの研究者によってダイナモのシミュレーションが盛んに行われており、磁場の逆転など地球磁場で観測されているさまざまな現象も、かなりよくシミュレーションから導き出すことができるようになっている。

河野 長]

地球磁場の起源としてのダイナモ

地球内部にコイルや導線があるわけはなく、ダイナモ作用が実現しているのは液体の鉄がある核の中である。したがって、地球磁場の起源としては一様な流体中での電磁相互作用を考えなければならない。核内の流体運動としては、内部ほど速く外部ほど遅く回転する非一様回転と、上部と下部の流体が入れ替わる対流が重要である。前者は双極子型(ポロイダルpoloidalという)磁場を東西方向に引き伸ばして、北半球で東向き、南半球で西向きの球面に沿った(トロイダルtoroidalという)磁場をつくる。この機構で強められた磁場を対流が南北に延ばして、結局もとのポロイダル磁場を再生すると考えられる。このような仕組みに基づく単純化したモデル(キネマティック・ダイナモという)が1950年代から1980年代にかけて多数研究された。これらのモデルは、磁場ができたときに運動に及ぼす反作用を考えていないなど、完全なものとはいえないが、ダイナモの働き方の根本的な点を理解するために役だった。たとえばポロイダル磁場からトロイダル磁場をつくる仕組み(差動回転が重要でオメガ効果という)、逆にトロイダル磁場からポロイダル磁場を再生する仕組み(対流が重要でアルファ効果という)の双方が働かないとダイナモはできないといったことが理解された。とくにアルファ効果には螺旋(らせん)運動(あるいは右ねじ、左ねじの運動)の重要性が示された。

[河野 長]

計算機シミュレーション

計算機の能力が大幅に向上した結果、ダイナモの複雑な過程をもとの方程式からほとんど仮定を置かずに直接に解くことが可能になった。こうしたモデルは1995年にまず日本とアメリカの二つのグループから発表され、それ以後も他のグループによって次々にモデルがつくられている。こうしたモデルによって、地球磁場とよく似たふるまいをするシミュレーションを地球の時間にして百万年以上の時間にわたって求めることも可能になった。すでにいくつかのモデルでは、地球の磁場と同様な極性の逆転も報告されている。

[河野 長]

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