ダランベールの夢(読み)だらんべーるのゆめ(英語表記)Le Rêve de d'Alembert

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ダランベールの夢」の意味・わかりやすい解説

ダランベールの夢
だらんべーるのゆめ
Le Rêve de d'Alembert

フランスの啓蒙(けいもう)思想家ディドロの哲学対話(執筆1769、刊行1830)。『ディドロとダランベールとの対話』Entretien entre d'Alembert et Diderot(第一の対話)、『ダランベールの夢』(第二の対話)、『対話の続き』Suite de l'Entretien(第三の対話)からなる連作総称。『盲人に関する書簡』Lettre sur les Aveugles à l'usage de ceux qui voient(1749)において無神論を表明したディドロは、この連作では、生命の起源に関する彼の唯物論的認識を明確にしようとして、数学者であり哲学者のダランベールを相手に、鉱物界から植物界を経て人間に至る物質的連鎖解明を試みた(第一の対話)。ディドロはこの証明のため、睡眠中のダランベールのディドロとの対話に関する寝言をめぐって、その女友だちレスピナス嬢が医師ボルドゥーに診断を仰ぎ、医師は、生命の唯物論的認識をさらに発展させ、同嬢に物質と精神の一元論を説く(第二の対話)という、巧みな構成を設定した。けれども、著名な実在人物作中に登場させたことや、無神論的唯物論を大胆に表明したことなどのために、この連作は、ディドロの生前には刊行されなかった。

[市川慎一]

『新村猛訳『ダランベールの夢』(岩波文庫)』『小場瀬卓三・平岡昇監修『ディドロ著作集 第一巻』(1976・法政大学出版局)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ダランベールの夢」の意味・わかりやすい解説

ダランベールの夢
ダランベールのゆめ
Le Rêve de d'Alembert

フランスの哲学者 D.ディドロの哲学的対話篇の一つ。『ダランベールとディドロとの対談』 Entretien entre d'Alembert et Diderot,『対談の続き』 Suite de l'entretienとともに一連の3部作をなす。3作とも 1769年に書かれたが,本書と『対談の続き』の登場人物であるレスピナッス嬢の抗議を受け,その死後 82年の『文芸通信』に初めて公開された。宇宙の構造,存在の生成中核として著者の唯物論的立場が明確に示されている。ここに示された理論はその後の科学の進歩を先取りしたものとして高く評価されている。

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世界大百科事典(旧版)内のダランベールの夢の言及

【怪物】より

…それに代わって,ビュフォンやジョフロア・サン・ティレールらは医学的見地から奇形問題と品種改良に強い関心を寄せ,新しい怪物概念をそこに見いだした。たとえばルソーは人工改良された花や家畜を怪物と呼び,ディドロは《ダランベールの夢》(1769)で,M.シェリーは《フランケンシュタイン》(1818)で,おのおの人工的に作られる生物に怪物のイメージを与えている。他方,奇形問題では二重体児を1人とするか2人とするかなど,洗礼や法律問題までが,奇形の人権にからめて討議されだし,見世物のために幼児を箱や陶器に何年も押しこめて人工的に奇形を作るといった非人道的な行為も批判の対象になった。…

【ディドロ】より

…他方,芸術の原理的諸問題に関する考察は,《百科全書》の項目〈美〉(1751),《聾啞者書簡》(1751)の抽象理論の枠組みを打ち破り,作品の理に即した展覧会評《サロン》(1759‐81)となって結実する。また,〈思弁哲学〉の時代の終焉と〈実験哲学〉――自然科学,特に生物学――の時代の到来を予告した《自然の解釈について》(1753‐54)に続き,対話体形式の三部作《ダランベールの夢》(1769)が書かれる。この作品では,〈感性〉をそなえた物質によって構成される全自然界――鉱物,植物,動物(人間も含む)――の統一が主張され,生物の発生,人間の意識,種の交配等の問題が,大胆な仮説の形で,しかもいきいきした対話のうちに論議されている。…

※「ダランベールの夢」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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