改訂新版 世界大百科事典 「チャタレー夫人の恋人」の意味・わかりやすい解説
チャタレー夫人の恋人 (チャタレーふじんのこいびと)
Lady Chatterley's Lover
イギリスの小説家D.H.ロレンスの小説。1928年刊。戦傷で不能の夫チャタレー卿をもつ貴婦人コンスタンスと森番メラーズの恋を描き,性的結びつきを基にした人間関係の復活をうたったものだが,その裏に精神の優しさの必要も強調されている。チャタレー卿に対する扱いなどに見られる上流階級への激しい敵意と没我的な自然描写の美しさが目だつ。1926年から執筆が始まり,28年フィレンツェで完成,同地で1000部限定版が出版された。翌年,パリで無削除版が出版されたが,同書がイギリスへ輸入されると,その性描写が議論の的となり,アメリカの税関では差し押さえられた。ロレンスの死後,32年にイギリスで〈公認削除版〉が出版されたが,無削除版の出版はアメリカでは59年,イギリスでは60年のことであった。いずれも出版者が罪に問われたが,裁判の結果は無罪であった。日本でも戦前から翻訳されていたが,50年伊藤整の完訳が出て,チャタレー裁判を引き起こした。
執筆者:鈴木 建三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報