日本大百科全書(ニッポニカ) 「テッポウウオ」の意味・わかりやすい解説
テッポウウオ
てっぽううお / 鉄砲魚
archerfish
硬骨魚綱スズキ目テッポウウオ科Toxotidaeの魚類の総称。英名アーチャーフィッシュ。1属6種が知られており、いずれも体は側扁(そくへん)し吻(ふん)が突き出て口はとがり、下顎(かがく)は上顎より前に出る。背びれは体の後半部から始まり4、5本の固い棘(とげ)をもつ。臀(しり)びれの前部には3本の棘がある。鱗(うろこ)は小さい円鱗(えんりん)。インド、ミャンマー(ビルマ)、フィリピン、オーストラリア北部に分布し、海岸近くや、汽水域、ときには淡水域にまで入り込む。マングローブなど植物が繁茂して陰になった薄暗い所を好む。テッポウウオ類は、名のように口から水滴を速射する習性があり、なかでもインドからニュー・ヘブリデス諸島まで広く分布するトキソテス・ジャクラタToxotes jaculatorが代表的な種である。全長は、多くの種が20センチメートルまでであるが、トキソテス・チャタレウスT. chatareusは40センチメートルにもなる。
テッポウウオは口先から水滴を飛ばし、水面より上にいる虫を撃ち落として食べるが、水滴を飛ばす仕組みは口の中にある。口腔(こうこう)上面の中央に細長く深い射水溝があり、一方、舌は後部で中央線のところが肉厚で隆起しており、先端が丸くて薄く口腔下面から遊離し、上に立てたり巻くこともできる。舌の後部の肉質隆起が口腔上面の射水溝に押し付けられると、溝が細い管になる。そこで舌を立てて上顎にぴったりと押し付け、鰓蓋(さいがい)をぐいと閉めると、のどにためてある水が射水溝に押し出される。同時に舌の先端がはじけて管状に丸まって弁の役目をし、口先から水滴を飛ばす。一度失敗しても何度でも発射でき、トキソテス・ジャクラタでは、35センチメートルから1メートルの距離にいる虫を撃ち落とすことができ、1.5メートルという記録もある。しかし、ごく近くに止まっている虫は水鉄砲を使わずに水から飛び上がって口でとらえる。
[中坊徹次]