日本大百科全書(ニッポニカ) 「デッカー」の意味・わかりやすい解説
デッカー
でっかー
Thomas Dekker
(1570?―1632)
イギリスの劇作家、パンフレット作家。ロンドンで生まれ育ったらしいが、出身は不明。一生借金に苦しみ、そのため幾度か投獄され、1613年からは7年近くも獄中に過ごした。M・ドレイトン、H・チェットル、J・ウェブスターらとの合作が多く、1597~1604年を中心に、単独作・合作あわせて40編以上の戯曲を書いたが、大半は失われている。彼がよく知っていたロンドンの庶民の活気にあふれた生活を、愛情を込めて描いた喜劇『靴屋の休日』(1600)は、エリザベス朝戯曲の傑作の一つ。ほかに『老フォーチュネイタス』(1600)、T・ミドルトンとの合作『律義な娼婦(しょうふ)』(1604)などが知られる。その後はロンドンの風俗を写実的に描写したパンフレットが多く、エリザベス女王の死とその年猖獗(しょうけつ)を極めた疫病の惨状を伝える『驚異の年』(1603)、『ロンドン七つの大罪』(1606)、とくに伊達(だて)男を気どる田舎紳士(いなかしんし)を風刺した『阿呆鳥(あほうどり)いろは教本』(1609)に、その才能が現れている。
[岡本靖正]
『北川悌二訳『しゃれ者いろは帳』(1969・北星堂書店)』▽『三神勲訳『靴屋の祭日』(『世界文学大系89 古典劇集2』所収・1963・筑摩書房)』