日本大百科全書(ニッポニカ) 「デュ・ボス」の意味・わかりやすい解説
デュ・ボス
でゅぼす
Charles Du Bos
(1882―1939)
フランスの批評家。イギリス女性を母としてパリの大ブルジョアの家に生まれ、イギリスのオックスフォード大学に学ぶ。英文学ばかりか広く仏独の文学にも精通し、いつも文壇の中心からやや外れたところにいて、好きな作家を好きなように論じた。その成果が『近似値』Approximations(七巻本1922~37、一巻本1965)である。彼の批評の特長は、ある作品・作家の内面を形成する深層にまで探りを入れ、直観と共感をともに働かせながら、自己の回心をも含む運命の諸相を明るみに引き出すこと、音楽や絵画の見方を巧みに用いて、対象の世界を自己のそれに即して再現することにある。しかしその批評は、彼の口述筆記させた膨大な量の『日記21―39』(九巻、1946~61)を母体として生まれてきたものであり、つまりその芽はすべて『日記』のなかにある。彼の代表作「ウォルター・ペーター」論(『近似値』所収)は、そのよい例である。
[松崎芳隆]
『清水徹訳『ショーソン、心による慰め』(『世界批評大系3 詩論の展開』所収・1975・筑摩書房)』▽『清水徹訳『バンジャマン・コンスタンと「アドルフ」』(『世界批評大系5 小説の冒険』所収・1974・筑摩書房)』