日本大百科全書(ニッポニカ) 「デュラス」の意味・わかりやすい解説
デュラス
でゅらす
Marguerite Duras
(1914―1996)
フランスの女流小説家、映画監督。4月4日、インドシナ(ベトナム)に生まれる。18歳のときパリに出て、ソルボンヌ大学(パリ大学)で学んだ。初期の『静かな生活』(1944)、『太平洋の防波堤』(1950)は、アメリカ小説、ことにヘミングウェイの影響を受けたネオリアリズム的作風を示しているが、『辻(つじ)公園』(1955)、『モデラート・カンタービレ』(1958)ごろからストーリー性を脱却した独自の対話スタイルを樹立し、発話の底に横たわる無意識的なるものの活力を浮かび上がらせようとする探究精神から、しばしばヌーボー・ロマンの作家たちと比較されるようになった。それ以後も『ロル・V・シュタインの歓喜』(1964)、『副領事』(1965)、『インディア・ソング』(1973)と狂気をテーマにした連作を発表し、『愛人』(1984)でゴンクール賞を獲得した。
また『セーヌ・エ・オワーズの陸橋』(1959)以後10編を超える戯曲を発表し、女優のマドレーヌ・ルノーとのコンビは『サバナ・ベイ』(1983)まで続いている。シナリオ作家としては『ヒロシマ、私の恋人』(邦訳名『24時間の情事』1960)、『かくも長き不在』(1961)を発表したが、自作の戯曲『ラ・ミュジカ』(1965)の映画化に際して自ら監督業に乗り出し、『破壊しに、と彼女は言う』(1969)、『ナタリー・グランジェ』(1972)を手がけ、音声と映像をそれぞれ独立した二系列として扱った。その新しい組合せによって無意志的記憶の浮上を追う実験は、『インディア・ソング』(1975)でみごとな成果をあげた。その後も『トラック』(1977)など前衛的作品を撮り続けた。
[田中倫郎]
資料 監督作品一覧
ラ・ミュジカ(冬の旅・別れの詩) La musica(1965)
破壊しに、と彼女は言う Détruire dit-elle(1969)
ナタリー・グランジェ Nathalie Granger(1972)
インディア・ソング India Song(1975)
ヴェネツィア時代の彼女の名前 Son nom de Venise dans Calcutta désert(1976)
トラック Le camion(1977)
マルグリット・デュラスのアガタ Agatha et les lectures illimitées(1981)
『田中倫郎訳『インディア・ソング/女の館』(1976・白水社)』▽『三輪秀彦訳『アンデスマ氏の午後/辻公園』(1979・白水社)』▽『平岡篤頼訳『木立ちの中の日々』(1979・白水社)』▽『田中倫郎訳『モデラート・カンタービレ』(河出文庫)』▽『三輪秀彦・安堂信也訳『デュラス戯曲全集』全2巻(1969・竹内書店新社)』▽『清水徹訳『愛人』(1985・河出書房新社)』