改訂新版 世界大百科事典 「トウバナ」の意味・わかりやすい解説
トウバナ (塔花)
Clinopodium gracile (Benth.) O.Kuntz.
やや湿った山野の道端に生えるシソ科の多年草。茎は基部で分枝し,長さ10~30cm,基部ははって,先の方は立ちあがる。葉は対生し,卵形で長さ2~3cm,鋸歯があって短い葉柄がある。5~8月ごろ,茎の先端に花穂をつくって,数段に淡紅紫色の花をつける。この花穂の状態が塔の九輪を思わせるところから,トウバナ(塔花)という名が出たと思われる。萼は筒状で長さ3~4mm,少し毛がある。花冠は筒状2唇形で長さ5~6mm,上唇は浅く2裂し,下唇はやや大きく3裂して,中央裂片は最も大きく,さらに2裂する。おしべは4本,花冠の筒の内部につく。花柱は1本で細長く,先が2裂する。北海道をのぞく日本,朝鮮半島南部,中国,インドネシアからインドに分布する。ミヤマトウバナC.sachalinense(Fr.Schm.)Koidz.は山の木陰に生え,やや大型で花穂は長く,多くの花輪があり,近畿地方以北の本州,北海道,千島列島,サハリンに分布する。クルマバナC.chinense(Benth.)O.Kuntz.var.parviflorum(Kudo)Haraは山野の道端に普通にあり,高さ20~80cm,花は紅紫色で大きく,萼の上唇は細長くとがる。日本,南千島,朝鮮に分布する。トウバナやクルマバナの全草を乾燥したものは,中国で解熱や風邪の治療に民間薬として利用される。
執筆者:村田 源
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報