感冒ともいう。一般には,くしゃみ,鼻汁,鼻閉,咳,のどの痛み,しわがれ声などの呼吸器症状に加えて,発熱,全身倦怠,頭痛,下痢,関節や筋肉の痛みなどの〈風邪様症状〉を伴う比較的軽症の疾患群をさすが,医学的には必ずしも明確に定義されているわけではなく,研究者によって,その定義や範囲は微妙に異なっている。しかし,いずれにせよ,単一の疾患ではなく,症候群とされ,〈風邪症候群〉と呼ばれることが多い。風邪症候群は最も普通には〈いろいろな原因で起こる,非特異的上気道炎〉と定義され,主としてウイルスの感染,ときに寒気やガスなどの物理・化学的な刺激やアレルギー性の原因によって起こる上気道(鼻から喉頭までの部分)の急性炎症をさす。しかし,風邪の原因がほとんどウイルスの感染によることや,同じ病原体が上気道だけではなく下気道をもおかすことから,急性気管支炎や肺炎を含め,急性ウイルス性呼吸器感染病と同義と解する立場もある。また,最も広義には風邪様症状を呈する気道疾患とも解されている。ただし,同じように風邪様症状を呈しても,病型が確立されているジフテリアや百日咳,主病変が気道以外にある水痘(水疱瘡),ポリオ,風疹などは除外される。このように風邪様症状を呈する病気はきわめて多い。〈風邪は万病のもと〉といわれるのも,しばしば風邪様症状が重篤な病気の初期症状であったり,二次感染によって,より重い病気を併発することが少なくないからである。なお,かつては寒冷刺激によって起こる風邪を〈寒冒〉といって区別したが,単なる寒冷刺激だけでは風邪をひかないことが明らかになり,近年は区別されなくなった。
以上のように,風邪の定義は医者によってさまざまであるが,ここでは風邪を最も普通な〈非特異的上気道炎〉と解して解説する。
風邪症候群は以下に述べるように,インフルエンザも含めて,臨床上いくつかのタイプに分類できるが,共通の症状としては,鼻汁,鼻閉,くしゃみなどの鼻症状,痰,咳,胸痛などの気管・気管支症状などがあり,これらがいろいろな形で組み合わされ,さらに発熱,頭痛,倦怠感,節々の痛み,悪心,嘔吐,下痢などの全身症状が加わる。感染性のものでは,潜伏期1~4日,発病後2~3日で症状が軽くなるのが普通であるが,重症の場合は2~3週間も続くことがある。また細菌の二次感染による合併症も起こしやすく,肺炎,急性気管支炎,中耳炎,副鼻腔炎などを併発しやすい。
風邪は最も多くみられる疾患で,1950年代のアメリカの調査では1人当り平均年に5.6回罹患していた。また,冬に風邪が多いのは,冬の低温低湿がある種のウイルスの生存に有利であるためとか,冬の室内環境(換気の不十分さや,屋内生活の長期化,人数の増加)が感染の機会を増やしているため,さらには寒冷化によって気道粘膜の防御機能の低下によるため,などと説明されている。
風邪の原因は多岐にわたるが,最も多いのがウイルスの感染によるもので,全体の90%近くを占める。インフルエンザの原因となるインフルエンザウイルスをはじめ,パラインフルエンザウイルス(RSウイルス),ライノウイルス,コロナウイルス,コクサッキーウイルス,エコーウイルス,アデノウイルスなどがその主要なものである。このほか,マイコプラズマ,リケッチア,クラミディア,細菌などの感染によるものもある。また,非感染性の原因によるものとしては,近年アレルギー性のもの(鼻アレルギー,アトピー性皮膚炎など)が注目されている。
風邪症候群にはいろいろな疾患が含まれ,いろいろな症状を呈するが,臨床的にはおおよそ次のように大別される。
(1)普通感冒common cold 鼻症状がおもなもので,発熱はないか,あってもごく軽微で,このため俗に〈鼻風邪〉と呼ばれる。ライノウイルスやコロナウイルスによるものが大部分で,鼻汁に触れた手指から伝染することが多い。
(2)咽頭炎pharyngitis 鼻症状はそれほどではないが,のどの痛みが強く,発熱も普通感冒よりは強い。悪寒,頭痛などの全身症状がみられることも少なくない。病原体はアデノウイルスやエンテロウイルスなど。アデノウイルスによる咽頭結膜熱は俗にプール熱ともいわれ,夏季にプールの水を介して伝染する。また,いわゆる〈夏風邪〉はエンテロウイルスによるものが多い。手足口病もこのエンテロウイルスやコクサッキーウイルスによるもので,広義の風邪に含まれる。
(3)インフルエンザ インフルエンザウイルスの感染による。詳細は〈インフルエンザ〉の項を参照されたい。
(4)その他の風邪 このほか,喉頭炎,ヘルプアンギーナ,クループなどが含まれる。
90%がウイルスの感染による風邪症候群には,根本治療法はない。対症療法によって症状を軽減させ,本来体に備わった抵抗力を期待する以外にない。そのためにまずなによりも必要なことは安静をとることである。とくに老人や幼児,他の病気に罹患している者の場合には,肺炎に移行したり二次感染によって他の合併症を起こさぬよう,十分に注意する必要がある。室内の温度,湿度に気をつけ,高カロリーで消化のよいものをとらせ,水分を十分に与えるとよい。発熱,頭痛,咳などの症状の軽減のために,いわゆる風邪薬が用いられるが,これらは,本来ウイルス感染には無効であり,病状を和らげるだけにすぎないので,過信して,過労になることは避けなければならない。
予防については,インフルエンザを除いて有効なワクチンはない。したがって体の抵抗力を低下させないよう,不断に過労や不養生を避け,うがいを励行することぐらいである。ガーゼマスクはウイルスの遮断にはまったく効果はなく,したがって健康時には不要であるが,のどや鼻の粘膜が発赤したり,乾燥しているときには,適度の温度と湿度を与え,上気道粘膜への刺激を軽減するため,有効である。
執筆者:小室 文明
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…発熱はふつう3~5日継続する。インフルエンザウイルス以外による感染症でも,同じような上気道の炎症で始まることが多く,とくに感冒症候群(風邪)と呼ばれているものとは区別しにくい。感冒症候群は明確な流行の形をとらない場合が多いが,確実な診断は血清学的検査によってインフルエンザウイルスに対する抗体価を測定する以外に方法はない。…
…初期に考えられていた病変を起こす気は外界にある邪気で,風とか湿のような形をとって体内に侵入するとした。とくに重視されたのは風邪(ふうじや)であって,たとえば中風はもとは風邪によって起こされた発熱性疾患であり,破傷風は傷口に風邪が侵入して起こった病気という考えであった。したがって,その治療にも薬物などのほかにまじないが重視された。…
…中国医学で風邪(ふうじや)によって起こされると考えていた一群の病気。風邪は冷たい風に当たって悪寒や発熱を起こすというようなことから想定されたのであろうが,傷口に風邪が侵入して破傷風を起こすと考えたように,風以外に,細菌やウイルスなど目に見えない外因も含んでいる。…
…発熱はふつう3~5日継続する。インフルエンザウイルス以外による感染症でも,同じような上気道の炎症で始まることが多く,とくに感冒症候群(風邪)と呼ばれているものとは区別しにくい。感冒症候群は明確な流行の形をとらない場合が多いが,確実な診断は血清学的検査によってインフルエンザウイルスに対する抗体価を測定する以外に方法はない。…
…また,うがいを行っても,その作用の及ぶ範囲は口腔内と咽頭の前方のみで,咽頭の後方や,下の方にまで効果を期待するには,咽頭洗浄法や吸入療法,ネブライザー療法などによらねばならない。 風邪やインフルエンザの流行時には,学校保健の立場からいっせいにうがいが励行されるが,風邪そのものに対する予防ならびに治療効果はない。しかし,〈病気に対しては清潔の保持が基本となる〉という考え方に立つならば,口内をきれいにしておくことは,間接的には予防に役立つといえよう。…
…また病気の起り方と治り方とから急性と慢性とに分類される。
[急性鼻炎]
最も多いものは風邪症候群の一部分である鼻の症状で,風邪の前ぶれ(前駆症状)であることも,風邪が鼻に残った(後遺症状)であることもある。また風邪のほかに,はしか,風疹,水痘,インフルエンザなどのウイルス性疾患,猩紅(しようこう)熱などの細菌性疾患でも急性鼻炎の症状を呈する。…
※「風邪」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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