インカ文明(読み)インカぶんめい(英語表記)Inca civilization

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「インカ文明」の意味・わかりやすい解説

インカ文明
インカぶんめい
Inca civilization

13~16世紀中葉に南アメリカアンデス地方に栄えた文明。アンデス地方には前2000年頃から穀物農耕が伝わり,チャビン文化モチーカ文化ナスカ文化ティアワナコ文化など諸文化が興ったが,インカ文明はその頂点をなす。旧大陸の文化と接触をもたず,独自の発展を遂げたが,16世紀にスペイン人に征服されて衰退した。インカ文明は大規模な灌漑施設による農業を基礎とし,その作物にはトウモロコシ,芋類,カボチャ,トマト,ラッカセイ,コカ,綿花などがありヨーロッパに未知なものが多かった。インカ帝国は政治組織,社会制度では卓越していたが,科学的学問の分野ではふるわなかった。ただし,建築,土木技術の面では高度の水準に達し,整然たる都市計画に基づく壮大な石造建築物や道路網が生まれた。各地に散在する太陽の神殿,80年間に毎日 2~3万人を動員して築いたといわれるサクサワマンの城塞(→サクサワマン遺跡),長い伝統をもつ巧みな灌漑水路などは,インカ建築技術の粋を集めたものといえる。工芸技術にも秀で,金銀銅細工,土器織物などに優れたものを多数残している。しかし,意匠はおもに幾何学模様で規格化され,芸術的独創性に乏しかった。外科手術薬学も発達し,麻酔剤コカを用いての頭蓋穿孔が行なわれた。インカの宗教は創造神ビラコチャのもとに太陽,月,星,雷,大地,海などの神々が君臨するアニミズムで,特に太陽神信仰が強かった。信仰の目的は,農作物収穫と病気の治療にあり,マヤ文明のような文化はみられなかった。系統的な文字はついに発明されなかったが,これに代わるものとして結縄文字キープ)が案出され,数は十進法で記録されて,公の統計に用いられた。(→アンデス文明

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