トケイソウ(英語表記)Passiflora caerulea L.

改訂新版 世界大百科事典 「トケイソウ」の意味・わかりやすい解説

トケイソウ (時計草)
Passiflora caerulea L.

花が時計の文字盤と針に似て美しいので,観賞用とされるトケイソウ科の常緑つる性植物。茎の基部は木質化する。枝が変形した巻きひげを有し,他物にからみつく。葉は掌状で5深裂し,葉柄の基部に托葉がある。花の基部に3枚の苞があり,萼片5枚,花弁5枚からなり,淡紅色または白色で,両者の形が似ているので,一見して10花弁のように見える。内部に糸状で多数の副冠があり,基部と先端は紫色で中央は白色である。おしべは5本で基部は合着し,葯は大きい。めしべは1本で花柱は3本に分かれ先はふくらむ。果実鶏卵くらいの大きさで,先が少しとがる。鉢植えにされたり,垣根や棚作りとして利用される。ブラジル原産で,温室植物としては寒さに強く,温暖地では戸外で越冬する。繁殖挿木による。

 トケイソウ属Passiflora(英名passionflower)は南アメリカを中心に400種以上が知られ,種子をつつむ種衣がゼリー状で,適度な酸甘味と芳香のあるものが多い。果物用に栽培されているのは,有名なクダモノトケイパッションフルーツ)のほかにも数種あり,また野生種でも食用にされる種は多い。

 観賞用として作られるものにはほかにベニバナトケイソウP.coccinea Aubl.,ムラサキフイリバトケイソウP.trifasciata Lem.などがある。
執筆者:

16世紀に南アメリカへ渡ったイエズス会士はこの花を見て,かつてアッシジフランチェスコが夢に見たと伝えられる十字架上の花と信じ,〈受難の花〉(Passion=受難)と呼んだ。トケイソウの葉は槍,5本の葯はキリストが受けた五つの傷,巻きひげはむち,子房柱は十字架,3本の花柱は釘を,それぞれ象徴すると見たためである。彼らはこれを,先住民が改宗を待ち望んでいた印と信じ,熱意をもって布教したので,短期間に多数の入信者を獲得したという。花言葉は〈聖愛〉〈篤信〉。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「トケイソウ」の意味・わかりやすい解説

トケイソウ
とけいそう / 時計草
blue passionflower
[学] Passiflora caerulea L.

トケイソウ科(APG分類:トケイソウ科)の常緑つる草。葉は掌状に5裂する。夏から秋、径7~8センチメートルの花を開く。花弁と萼片(がくへん)は淡紅色を帯び、副花冠は紫色が蛇の目状に入る。糸状の副花冠と花弁と萼片を時計の文字盤に見立てて名がついた。ブラジル、アルゼンチン原産で、日本には1723年(享保8)にオランダから渡来したといわれる。耐寒性が強く、関東地方以西では露地で越冬する。他種との交雑も可能である。

 トケイソウを含め、トケイソウ属は熱帯アメリカを中心に、アジア、オーストラリアなどに約500種分布する。トケイソウのほか、次の各種がよく栽培される。ベニバナトケイソウP. coccinea Aubl.は葉は長楕円(ちょうだえん)形で縁(へり)に粗い鋸歯(きょし)がある。茎上部の葉腋(ようえき)に径約10センチメートルの朱赤色花を開く。冬から春によく開花し、行灯(あんどん)仕立てがよい。ホザキノトケイソウP. racemosa Brot.はブラジル原産で、古い茎は木質化する。長い花茎を垂れ下げ、基部から径8~10センチメートルの赤色花を1、2個ずつ次々と開く。一年中花をつけるが、完全に開かないままのことが多い。ビティフォーリアP. vitifolia Kunthは中南米原産で、大輪の赤色花を開く。モリシマP. mollissima Baileyはベネズエラ、ボリビア原産で、径6~7センチメートルの桃色花を開き、バナナ状の果実をつける。夏の暑さに弱く、栽培はむずかしい。パッションフルーツの名で知られるクダモノトケイソウP. edulis Simsや、同様に食用種のオオナガミクダモノトケイソウ(オオミトケイソウ)P. quadrangularis L.も花が美しく、観賞用として栽培できる。全種とも繁殖は挿芽による。

[高林成年 2020年6月23日]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「トケイソウ」の意味・わかりやすい解説

トケイソウ(時計草)
トケイソウ
Passiflora caerulea; passionflower

トケイソウ科の常緑多年生のつる植物。ブラジル原産で,日本には享保年間 (1716~36) に伝えられたという。茎はつる状で約 4mに達し,分枝しない巻きひげで他物にからみつきながら伸びる。葉は互生し,掌状に5深裂して全縁,葉柄の基部には大きな托葉が目立つ。夏に,葉腋に柄のある大型の花をつける。花被片は 10枚で平らに開き,外側の5枚が萼片,内側の5枚が花弁である。花弁の色は淡紅または淡青色で花被の内側に多数の糸状の副花冠があり科の特徴とされる。花の形を時計の文字盤に見立てて時計草といい,観賞用に温室で栽培する。やはりブラジル原産の同属の近縁種にクダモノトケイソウ P. edulisがあり,果実を生食やジュース用 (パッションジュース) にするため熱帯各地で栽培される。日本でも南西諸島でつくっている。この種は葉が3裂し,副花冠が花被と同じくらい長く,紅紫色の斑点のある長さ 10cmほどの果実をつける。

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百科事典マイペディア 「トケイソウ」の意味・わかりやすい解説

トケイソウ

ブラジル原産のトケイソウ科の多年生のつる草。葉は掌状に5深裂。花は白色まれに淡紅色で平開し,萼片(がくへん),花弁ともに5枚。中ほどが白く先端と基部が紫色の糸状の副冠が多数並び,花の中央に下部が1本になった5本のおしべがあり,その上に花柱が3本あるめしべがある。花の構造が受難の十字架に似るのでパッションフラワーともいう。果実は黄熟する。観賞用に温室内で鉢植,地植とするが,暖地では戸外で越冬する。これに似たクダモノトケイソウは果実が卵形で濃紫色に熟す。果肉(多汁質の仮種皮)はだいだい色で芳香強く甘味と酸味があり,生食し,または果汁をパッションジュースとして飲料にする。暖地で栽培。両種とも繁殖はさし木による。

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