とべら

精選版 日本国語大辞典 「とべら」の意味・読み・例文・類語

とべら

  1. 〘 名詞 〙
  2. トベラ科常緑低木。関東以西の本州、四国、九州の海岸に生え、また庭木としても栽植される。幹はよく枝を分け、こんもりと茂り、高さ二~三メートルになる。葉は枝の上部に集中してつき、長さ五~一〇センチメートルの倒卵形。光沢がある革質で、縁は少し裏にそりかえる。初夏、芳香のある径一センチメートル内外の白色、のちに黄変する五弁花を開く。花は枝頂にややまばらに集まって集散花序となる。果実は指頭大で短毛を密布し、熟すと三裂して赤い粘った種子を出す。節分に枝を扉にはさんで鬼をよける風習から「とびらのき」といい、和名は、その略という。漢名、海桐。とべらのき。〔日葡辞書(1603‐04)〕
  3. 植物「しゃくなげ(石南花)」の異名。〔康頼本草(1379‐91頃)〕

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「とべら」の意味・わかりやすい解説

トベラ
とべら / 扉木
[学] Pittosporum tobira (Thunb.) Ait.

トベラ科(APG分類:トベラ科)の常緑の大形低木。高さ約3メートルに達する。葉は枝先近くに密に互生し、楕円(だえん)状倒卵形で長さ10センチメートル、幅約3センチメートル、革質で光沢があり、先は丸い。6月ころ、枝先に集散花序をつくり、白色花を開く。花は単性花で芳香があり、雌雄異株萼片(がくへん)は5枚、卵形で縁(へり)に毛がある。花弁はへら形で平開し、先端はしばしば反り返る。雄しべ雄花では長く稔性(ねんせい)であるが、雌花では小さく不稔性。雌花には3枚の心皮からなる雌しべが1本ある。果実は球形で、径1.2~1.6センチメートル、熟すと3裂開し、赤色の種子を裸出する。名は、節分に、この果実を扉に挟み、魔除(まよ)けとすることに由来し、別名トビラノキともいう。海岸に生え、関東地方以西の本州から沖縄、および朝鮮半島南部、中国大陸南部、台湾に分布するが中国のものは自生ではない可能性がある。

 近縁のコヤスノキ(子安木)P. illicioides Makinoは常緑低木。葉質はトベラほど厚くなく、先は鋭くとがる。花柄は毛がなく、細長い。兵庫県、岡山県の山地の林内に生え、台湾と中国大陸中部にも分布する。神社の林に多くみられ、安産祈願をすることからコヤスノキの名がある。

 トベラ属は約150種あり、一部はアジアにあるが、分布の中心はポリネシアおよびオーストラリアである。小笠原(おがさわら)にはトベラの近縁種が4種あり、狭い地域で著しく種分化がおこっていることで知られる。

[古澤潔夫 2021年11月17日]

 トベラ科PittosporaceaeはAPG分類でもトベラ科とされる。この分類によるとアジア、アフリカ、オーストラリアの暖帯から熱帯に9属約250種あり、日本には1属6種が分布する。

[編集部 2021年11月17日]


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改訂新版 世界大百科事典 「とべら」の意味・わかりやすい解説

トベラ
tobira
glossy-leaved pittosporum
Pittosporum tobira Ait.

日本の暖地海岸に普通なトベラ科の常緑低木。トビラノキともいう。トベラの名は昔,節分にこの板を門扉に挿して魔除けに用いたためという。高さ2~3m,よく枝分れし,こんもりとした樹形を作る。葉は枝先に集まってつき,先端のまるい長楕円形で長さ4~8cm,葉質が厚く表面は濃緑色で光沢があり,中央の葉脈だけよく目だつ。初夏,枝先に花序を出し長さ1~2cmの5弁の白花を数個上向きにつける。クチナシに似た芳香がある。雌雄異株。雌花は秋に硬い球形の実を生じ,直径1~2cmで熟すと三つに割れ,赤色の種子をのぞかせる。暖地の海岸照葉樹林の代表的な種類で,分布は本州から沖縄,台湾に達し,また乾燥や病虫害に強いので,庭樹や公園樹,高速道路のグリーンベルトに栽植され,いくつかの園芸品種がある。同属の植物にコヤスノキP.illicioides Makinoがあり,西日本に稀産する。木は大きく葉もトベラより大きいが葉質は薄い。長い柄のある花を枝先に多数,散形状につける。小笠原諸島には近縁のシロトベラ,コバノトベラ,ハハジマトベラなどが分化している。

 トベラ科Pittosporaceaeは9属200種ほどの,すべて木本からなる小さな科で,うち8属まではオーストラリアに固有であるが,トベラ属だけがアジア・太平洋地域に広い分布をもつ。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「とべら」の意味・わかりやすい解説

トベラ
Pittosporum tobira

トベラ科の常緑低木で,本州中部以西から四国,九州の海岸近くに生えるが,庭木や公園樹としてもよく栽植される。幹は 3mほどで密に分枝してこんもりとした円形の樹冠をつくる。葉は枝の先端部に密に互生し,倒卵形で先端は丸い。葉は厚く光沢があり,縁は下面へ巻込む。初夏に,枝先に集散花序をなして白色の花をつけ芳香がある。花弁は5枚で筒形をなし,のちに花色が淡黄色に変る。雌雄異株で,雌花ではめしべだけでおしべは退化し,雄花では逆に5本のおしべが目立つ。果実は直径 2cmほどの球形で熟すると3つに裂け,赤褐色の粘液でおおわれた種子を露出する。全体に一種の臭気があり特に根皮が著しい。葉を煎じた液を皮膚病の外用薬とする。節分の夜に枝を扉にはさみその臭気で疫鬼をよけたので「トビラノキ」ともいう。この属の植物はオーストラリアに多く,日本では本種のほか小笠原にシロトベラなど4種の特産種がある。

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百科事典マイペディア 「とべら」の意味・わかりやすい解説

トベラ

トビラノキとも。トベラ科の常緑低木。本州〜沖縄の海岸地方にはえる。よく枝分れし,葉は互生して枝先に密生,長倒卵形で厚く,革質をなしやや光沢がある。雌雄異株。5〜6月,枝先に集散花序を頂生し5弁花を開く。花は径約1cm,初め白色だが,のち黄色に変わり,芳香がある。果実は球形で11〜12月に熟して3裂し,赤い粘った種子を出す。庭木とする。
→関連項目海岸植物

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