日本大百科全書(ニッポニカ) 「トマス・ア・ケンピス」の意味・わかりやすい解説
トマス・ア・ケンピス
とますあけんぴす
Thomas à Kempis
(1379/1380―1471)
ドイツのキリスト教的神秘思想家。本名はトマス・ハンメルケンTh. Hamerken。ライン川沿いのデュッセルドルフ近くのケンペンで生まれる。「共同生活兄弟会」の会員となり、その生涯の大半をオランダのズウォレ近くの聖アグネス山のアウグスティヌス会修道院で過ごした。15世紀前半にラテン語で書かれたキリスト教修徳書『キリストに倣いて』(イミタチオ・クリスチ)の著者と推定されている。「聖なる三位(さんみ)一体についての高度に精細な議論は、あなたが謙遜(けんそん)でないならばなんの役にたつであろうか」という同書の簡潔平明で力強いことばにみられるように、内的生活と修徳に関して彼は理論的であるよりむしろ純粋に実践的な傾向を示している。この書物はおそらく修道者のために書かれたが、『新約聖書』に次いで広く愛読され、50か国語以上に翻訳されてキリスト教修徳書の古典になっている。日本では、キリシタン時代の16世紀末に邦訳本『こんてむつすむん地』が出版され、今日では数種類の翻訳がある。
[宮内久光 2017年11月17日]
『大沢章・呉茂一訳『キリストにならいて』(岩波文庫)』