トラークル(その他表記)Georg Trakl

デジタル大辞泉 「トラークル」の意味・読み・例文・類語

トラークル(Georg Trakl)

[1887~1914]オーストリア詩人。初期表現主義代表者詩集「夢の中のセバスチャン」など。

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改訂新版 世界大百科事典 「トラークル」の意味・わかりやすい解説

トラークル
Georg Trakl
生没年:1887-1914

初期表現主義を代表するオーストリアの詩人。ザルツブルク商家に生まれ,ウィーン大学で薬学を学ぶが,早くから詩人をめざす。はじめフランス象徴派,印象主義などの影響のもとに,世紀末風の耽美的作品を書いたが,ランボーや新時代の作品に触れて詩風は大きく変わる。1911年インスブルックの文芸誌《ブレンナー》の編集者フィッカーLudwig von Fickerに認められ,約3年間,同誌に集中的に作品を寄稿,独自の詩境を確立し,具眼の読者の注目を集めた。作品の基本的テーマは〈没落〉であるといってよく,背景としての歴史・風土的条件は無視できないが,作者がその滅びの苦しみのただ中に身を置き,厳しい孤独の内面から透明で硬質な響きを通し個と時代を超えた〈人間〉の嘆きと愛を歌いきった純粋さは,しばしばヘルダーリンと比較される。

 麻薬悪習にそまり,また,実妹マルガレーテとの宿命的な暗い愛に生涯苦しんだが,実生活を覆う憂愁が彼の作品の基調をなしながら,これに耐えて世界を見返す強く温かな視線をもはぐくんだ。第1次大戦には,衛生見習士官として東部戦線出征激戦自殺試み,さらに戦闘中精神錯乱を疑われてクラクフの軍病院に収容中,14年11月3日,コカインの過量服薬で自殺とおぼしい死を遂げた。生前に《詩集》(1913),没後に《夢の中のセバスティアン》(1915)等があるが,その真髄が発見され正当な評価を受けるのは,ようやく第2次大戦後のことである。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「トラークル」の意味・わかりやすい解説

トラークル
とらーくる
Georg Trakl
(1887―1914)

オーストリアの初期表現主義詩人。ザルツブルクの商家に生まれる。薬学を修めるが、早くから、フランス象徴主義、新印象主義などの影響下に詩人を志し、初め世紀末風の耽美(たんび)的な作品を書いた。ついでランボーや新しい文学の動きに触れて詩風を一変、1912年インスブルックの文芸誌『ブレンナー』の編集者L・v・フィッカーに認められ、同誌に集中的に作品を発表した。硬質な結晶に似たことばによる澄明な響きによって、孤絶した人間や風景を内面から刻み上げる独自の叙情を確立し、『詩集』(1913)をまとめた。

 その作品の基底には、「没落」の感情が宿命的に色濃く流れており、歴史的、風土的背景を感じさせるが、その滅びの苦はしだいに内面化され、近代人の孤独と苦悩を先取りする比類ない詩表現を獲得してゆく。実妹マルガレーテとの暗い愛の関係、麻薬の常用、職業人としての不適応など、社会的には終始、疎外の重い条件を背負った生涯であった。第一次世界大戦には衛生見習士官として東部戦線に出征、激戦のさなか、精神錯乱を疑われて収容され、コカインの中毒による自殺とおぼしい死を遂げた。没後に出た第二詩集『夢の中のセバスチャン』(1914)や遺稿は、さらに深い詩人の魂の成熟を証している。

[瀧田夏樹]

『ホルムート、栗崎了、瀧田夏樹編・訳『対訳トラークル詩集』(1985・同学社)』『平井俊夫訳『トラークル詩集』(1967・筑摩書房)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「トラークル」の意味・わかりやすい解説

トラークル
Trakl, Georg

[生]1887.2.3. ザルツブルク
[没]1914.11.3. クラクフ
オーストリアの詩人。表現主義初期の代表的な存在。富裕な金物商の家に生れたが,15歳頃から麻薬に親しむなど病的生活に陥り,また末の妹と深い愛によって結ばれ近親相姦の関係にあったと推測されている。学校を中退して薬剤師になり,1914年第1次世界大戦の開始とともに東部戦線に送られ,同年9月グローデクの激戦の悲惨を体験し,数日後にピストル自殺を企て,10月クラクフの陸軍病院の精神病棟に収容されたが薬物により死去 (自殺らしい) 。生前に『詩集』 Gedichte (1913) が出ただけで,第2詩集『夢のなかのセバスチアン』 Sebastian im Traum (15) は死後の出版。その作風はヘルダーリーンに近く,死,絶望を歌ったものが多い。

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百科事典マイペディア 「トラークル」の意味・わかりやすい解説

トラークル

オーストリアの初期表現主義の詩人。麻薬にふけっていたが,第1次大戦に看護兵として従軍,戦争の悲惨さに耐えられず錯乱して自殺したとみられる。妹への近親相姦(そうかん)的感情に生涯苦しみ,その作品も暗い憂愁を常にたたえ,宿命的な〈没落〉の過程をテーマとした。その直観の純粋さと独自のスタイルによって20世紀ドイツ詩最高の成果に数えられる。
→関連項目ホリガー

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