ドイッチャー(読み)どいっちゃー(英語表記)Isaac Deutscher

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ドイッチャー」の意味・わかりやすい解説

ドイッチャー
どいっちゃー
Isaac Deutscher
(1907―1967)

イギリスの国際問題専門家、ソ連研究家。ポーランドオシフィエンチムアウシュウィッツ)に近いクルザノフ生まれのユダヤ人。1927年ポーランド共産党に入党、機関誌の編集長となった。1932年にナチス脅威を誇大に宣伝したとして党を除名されたが、その真の理由は反スターリン運動を行ったためであった。1939年ロンドンに移り、やがて『エコノミスト』誌、『オブザーバー』紙などでソ連通の国際問題専門ジャーナリストとして活躍。第二次世界大戦後は『スターリン 政治的伝記』(1949、増訂版1967/邦訳1963、新版1984・みすず書房)、トロツキー伝三部作――『武装せる予言者』(1954)、『武力なき予言者』(1959)、『追放された予言者』(1963/邦訳全3部・1964・新潮社、新版1992・新評論)などで名声を確立した。トロツキー伝はトロツキー文庫中の非公開資料を特別に許されて利用した唯一の伝記として信頼されている。邦訳には前述のほか『ロシア革命五十年』『非ユダヤ的ユダヤ人』(いずれも岩波新書)などがある。

上野 格]

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改訂新版 世界大百科事典 「ドイッチャー」の意味・わかりやすい解説

ドイッチャー
Issac Deutscher
生没年:1907-67

ポーランド出身のユダヤ系ジャーナリスト,ソ連・東欧研究者。クラクフに生まれ,クラクフ大学で歴史,文学を学んだ。1926年ポーランド共産党に入ったが,32年トロツキー派として除名された。39年ロンドンに渡り,《オブザーバー》《エコノミスト》の編集に従事した。49年《スターリン伝Stalin,a Political Biography》を出版,文筆活動に入りトロツキー伝三部作《武装せる予言者》(1954),《武力なき予言者》(1959),《追放された予言者》(1963)をまとめた。スターリン批判以後,みずからの経験と深い学識に裏うちされた多くのソ連論を発表したことでも知られる。晩年はスターリン伝,トロツキー伝に次ぐレーニン伝を執筆していたが,未完に終わった。自伝的な遺著《非ユダヤ的ユダ人》がある。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ドイッチャー」の意味・わかりやすい解説

ドイッチャー
Deutscher, Isaac

[生]1907.4. クラクフ
[没]1967.8.19. ローマ
イギリスのソ連・東欧研究家,ジャーナリスト。ユダヤ系ポーランド人。クラクフ大学卒業ののち 1926年ポーランド共産党に入党。 26~32年党機関紙の編集員。 32年スターリンの社会ファシズム論を批判し党内左派を結集,スターリン指導下のコミンテルンの政策に抵抗したがトロツキー派であるとして党から除名された。 39年ロンドンに渡りのちイギリス国籍を得る。『オブザーバー』『エコノミスト』の編集に従事したのち 49年に『スターリン伝』 Stalin: A Political Biographyを発表,以後もっぱら著作活動に入り,『トロツキー』3部作『武装せる予言者』 The Prophet Armed (54) ,『武力なき予言者』 The Prophet Unarmed (59) ,『追放された予言者』 The Prophet Outcast (63) ,『レーニン伝』 Lenin (2巻,未完) ,『非ユダヤ的ユダヤ人』 (68) などを残した。

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百科事典マイペディア 「ドイッチャー」の意味・わかりやすい解説

ドイッチャー

ポーランド出身の英国政治評論家。共産党員だったが,反スターリン派(スターリン批判)として除名され,1939年英国に亡命,帰化。共産圏問題の論評で知られた。著書はトロツキーの伝記など。

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