説教者兄弟修道会(ドミニコ会)の創立者,聖人。ドミニク(英語,フランス語),ドメニコ(イタリア語),ドミンゴ(スペイン語)ともいう。スペイン,カスティリャの貴族の家に生まれ,パレンシアの司教座教会学院で学び,1199年ころオスマ司教座教会の修道参事会会員になった。オスマ司教ディダクスDidacusに従いローマへ赴いた際,南フランスに広がっていたカタリ派(アルビジョア派)の精神と運動に接触して彼らの教化を志し,みずから福音の中のキリストの清貧に従って信仰真理の巡回説教者となった。1215年初めトゥールーズに福音の説教者教育養成所を設立し,新修道会を計画したが,これはついに16年12月22日教皇ホノリウス3世Honorius Ⅲ(在位1216-27)から認可を得た。この修道会はベネディクト会的な修道院と異なって,使徒活動による教会奉仕や修道院定住の誓約なしに行う民衆との交流を,総会と総会長の下にある中央統治組織の管轄の中で推進する托鉢修道会として急速に全西欧に発展し,福音宣教の一翼をになった。ボローニャに没し,この地のアルカ・ディ・サン・ドメニコ修道院に葬られた。祝日は8月8日。
執筆者:鈴木 宣明
美術作品では,白衣に黒い上着のドミニコ会の修道士服を着け,清純を表す白ユリ,彼が特に帰依したといわれるロザリオ,本(炎に入れた際,異端の本は燃えたが彼の本は無事であったという伝説に由来)を持つことが多い。松明をくわえた白と黒の斑(ぶち)の犬を伴うこともあるが,これは母が出産前に見たという夢に関連し,世の光,主の番犬としての彼の生涯を暗示するものと解釈されている。額か頭上の輝く星も伝説に基づく。また一切れのパンがともに描かれるのは,食べ物が何もない修道院で彼が仲間の修道士たちと食卓に座ったとき,天使が現れて各自にパンを与えたとの伝説による。
執筆者:井手 木実
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ドミニコ会の創立者。西欧中世の十字軍と都市の発展の時代にスペインに生まれる。当時の無知な人々、とくに南フランスで善悪二元論を教えるカタリ派の人々にキリストの福音(ふくいん)を説こうとした。そのため、剣(つるぎ)によらず村から村を巡って説教やロザリオの祈りをなし、「貧しいキリスト教徒」として托鉢(たくはつ)によって清貧の手本を人々に示した。1215年、説教によってヨーロッパ全土にキリスト教の真理を広めようと、説教者修道会を同志とともに設立した。翌1216年教皇ホノリウス3世Honorius Ⅲ(在位1216~1227)によって修道会として認可された。これがドミニコ会である。1221年、彼はイタリアのボローニャでその祈りと活動に満ちた生涯を閉じ、1234年に列聖された。青年時代に神学を愛したが、飢饉(ききん)のとき、「人々の飢えて死んでゆくのを、死んだ羊皮紙の上に座って見過ごすことはできない」と、貴重な羊皮紙写本を売って人々を助けたことは有名である。
[宮本久雄 2017年11月17日]
『マリ・ドミニック・ポアンスネ著、岳野慶作訳『聖ドミニコ』(中央出版社・グロリア文庫/のちサンパウロ・アルバ文庫)』
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…また13世紀末ころに編さんされたと思われる《ローマ人事績》は,古今の逸話およそ180編を集め,内容も雑多ではあるが,イギリスの学僧の手に成ると思われ,宗教的な敬虔が全般をおおい,宗教文学といわれるべき条も少なくない。一方イタリアに出た2人の修道会開祖,フランチェスコとドミニクスは,いずれもラテン語あるいはイタリア語で,教義や修道会会則,説教等を著した。中でも,フランチェスコの特異な人柄,その清貧の教えはその言行を録した《完全の鑑》に現れ,ことにイタリア語をもってした《太陽の歌》の〈いと高く,全能にまし善なる主よ〉は,中世を通じて最も浄(きよ)らかな歌の一つである。…
…そのもっとも典型的な図像表現がフィレンツェ,サンタ・マリア・ノベラのフレスコ画であろう。そこにはカタリ派に説教するドミニクスとともに,羊,オオカミ,牧羊犬が描かれている。羊がキリスト教徒の,オオカミがカタリ派の,そして牧羊犬がドミニコ会士の寓意であることはいうまでもない。…
…〈説教者兄弟修道会〉ともいう。カスティリャの名門出身のドミニクスがオスマ司教ディダクスとともにトゥールーズで組織した修道者団体を起源とし,1216年教皇ホノリウス3世の認可によりアウグスティヌス律修参事会則を採用して正式修道会となった。〈清貧〉主義の実践と神学的内容の豊かな説教活動を使命とし,まず南フランスの異端アルビジョア派の改宗運動にとりくみ,当時フランス王権の南フランス進出に便乗してくりかえされていた北フランス諸侯による武力弾圧(アルビジョア十字軍)とは関係なく,プルイユ(トゥールーズ付近)の女子修道院と協力して平和的手段による説得につとめ,異端者の教会復帰に効果をあげた。…
※「ドミニクス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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