13世紀初めの西ヨーロッパで革新的なキリスト教信仰生活をめざした新形式の修道会の総称。フランシスコ会,ドミニコ会,カルメル会,アウグスティヌス会などがこれに属する。これらの修道会は,中世初期以来のベネディクト会系の修道院が民衆から隔絶した場所に定住し,しかも有力信者からの寄進を受けて富裕化,世俗化したのに対して,その生活方式を根本的に異にし,個人・共同体ともに財産を所有せず信徒からの喜捨にたよる〈清貧〉の精神を重視した。托鉢(乞食)修道士の名はこれによる。また使徒的宣教を主任務と考え,同一修道院に定住せず,共唱祈禱や手仕事の日課を削減し,外部でのダイナミックな活動を行った。当時興隆期にあった都市の市民階層を対象として知的宣教を推進し,各地の大学で教授権を得て神学上の権威集団となり,南フランスの異端アルビジョア派と対決したり,イスラム世界や東洋への布教にも従事した。宣教の手段を説教のみに求め,哲学・法学・人文諸科学の研究において同時代の知的最高水準を示し,スコラ学の確立に貢献した。
教皇権に直属して司教管轄権からの免属特権を受け,教会内の新勢力として発展し,アッシジのフランチェスコやトマス・アクイナスなど偉大な宗教家や大学者を輩出した。法学面ではローマ法に精通した教会法学者を生み,異端審問制度の確立に寄与した。他方女性の宗教的活動に着目して第二会(女子修道会)を併設し,また一般信徒の積極的協力に道をひらく第三会を創設するなど,新しい社会におけるキリスト教の将来を予見したのもこの種の托鉢修道会の功績であった。
→修道会
執筆者:橋口 倫介
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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西洋13世紀に誕生したフランシスコ会,ドミニコ会などの新しい修道会のあり方。托鉢とはこれらの会が土地や財産を持たない「清貧」を理想とし,それまでの修道会のような自給自足の定住共同体をつくらなかったことに由来する。12,13世紀には,農業生産の拡大によって生じた急激な人口増加の結果,多くの人々が農村を離れ,都市に流入する。既存の地縁血縁的共同体秩序を持たない民衆は,世俗の権力と結びついて富裕化した教会やそれまでの修道会のもとを離れ,しばしば純粋な生き方を志向する過激な宗教的社会運動(カタリ派など)を引き起こした。托鉢修道会はこうした民衆の要求に応えようとするものであった。また,説教活動に力を注ぐ托鉢修道会は学問に力を入れ,都市に拠点を置いたことから大学にも深く関わるようになった。トマス・アクィナスやボナヴェントゥラなどスコラ学の代表的な神学者の多くは,托鉢修道会に属する修道者である。
著者: 加藤和哉
出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報
もっぱら信者の喜捨によって生活し,修道院外での布教活動に主眼を置き,一所定住の義務を負わない点で修道士とは異なる托鉢修道士によって,ときには信者をも加えて組織された修道会をいう。質素な生活維持に必要な物以外,個人としても団体としても財産を持たず,使徒的生活に徹することを理想として民衆の信仰生活に革新を与えたが,学問研究にも優れた業績を残した。準拠する戒律は聖アウグスティヌス会則。フランチェスコ修道会,ドミニコ修道会,カルメル修道会,アウグスティヌス隠修士会(1256年認可)など。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
出典 旺文社世界史事典 三訂版旺文社世界史事典 三訂版について 情報
…シトー会修道院は,建築様式においてもその厳しい禁欲的修道精神をそのまま形象化して建築史に一時代を画したが,フランシスコ会の清貧ぶりはさらに徹底していた。フランシスコ会とドミニコ会とは托鉢修道会とも呼ばれるが,それは,もっぱら信者の喜捨によって使徒的生活を旨としていたことによる。フランシスコ会の創設者アッシジのフランチェスコが,その〈遺言書〉のなかで〈修道士の家はすべて木と泥で建てられねばならない〉といったように,当初彼らの修道院はこの通りの小屋であった。…
…これと性格のよく似た司祭集団の修道会にドミニコ会があるが,ここではやがて学問が重視されて学者が輩出する。ドミニコ会と並ぶ説教修道会がフランシスコ会であるが,彼らは個人としても共同体としても財産を持たず,もっぱら信者の喜捨によって生活したので,托鉢修道会とか乞食修道会とか呼ばれた。1215年の第4ラテラノ公会議は新会則による修道会の設立を禁じたが,〈フランシスコ会則〉は1223年教皇の承認を得た。…
…1215年初めトゥールーズに福音の説教者教育養成所を設立し,新修道会を計画したが,これはついに16年12月22日教皇ホノリウス3世Honorius III(在位1216‐27)から認可を得た。この修道会はベネディクト会的な修道院と異なって,使徒活動による教会奉仕や修道院定住の誓約なしに行う民衆との交流を,総会と総会長の下にある中央統治組織の管轄の中で推進する托鉢修道会として急速に全西欧に発展し,福音宣教の一翼をになった。ドミニクスはボローニャに没し,この地のアルカ・ディ・サン・ドメニコ修道院に葬られている。…
※「托鉢修道会」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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