日本大百科全書(ニッポニカ) 「サラソウジュ」の意味・わかりやすい解説
サラソウジュ
さらそうじゅ / 沙羅双樹
[学] Shorea robusta Gaertn.
フタバガキ科(APG分類:フタバガキ科)の常緑高木。インド北部原産。高さ40メートル、葉は互生し、革質、全縁。葉柄の基部には托葉(たくよう)があるが、早期に脱落する。幹の上部の葉の付け根に大形の円錐(えんすい)花序を生じ、淡黄色の花をつける。花弁の基部は癒着して短い筒状となり、先端は5裂する。雄しべは多数、子房は3室。果実はどんぐりのような堅果で細長く、食用になる。材は堅く、じょうぶで建築材とする。同属の植物には、材木および樹脂材料とされる木がいくつか知られ、ラワン材もこの属の植物の材である。樹脂はダマール(ダンマー)dammarとよばれ、薬用として絆創膏(ばんそうこう)や硬膏の原料に、工業用としてワニスの原料にされる。ダマールは古くはサラソウジュからおもに採取され、サルダマールsal-dammarとよばれた。現在はフタバガキ科の他の植物から採取されるものが多いが、合成樹脂の発明後、ダマールの産額は減少の傾向にある。なお、日本の寺院でサラソウジュと称して境内に植えられている植物や、花屋でサラソウジュの名で苗木を販売し、また盆栽などに仕立てられている植物は、ツバキ科のナツツバキ(シャラノキ)で、まったくの別種である。
[星川清親 2020年11月13日]
仏教では聖木とされる。沙羅はサンスクリット語シャーラśālaの音写語で、堅固な樹(き)の意。沙羅樹とも。仏陀(釈迦(しゃか))入滅のとき、臥床(がしょう)の四方に2本ずつ生えていた沙羅樹の各1本が枯れ、他は残って栄枯の相を示したと伝えられる。その枯れた沙羅樹が白鶴のようであったので鶴林(かくりん)ともいう。仏伝では、生誕時の無憂樹(むゆうじゅ)、成道(じょうどう)時の菩提樹(ぼだいじゅ)、入滅時の沙羅樹と、仏陀生涯の重大事を樹で象徴しており、インドの聖樹信仰の残存をうかがわせる。日本では『平家物語』の冒頭「娑羅双樹(しゃらそうじゅ)の花の色 盛者(じょうしゃ)必衰の理(ことわり)をあらはす」でよく知られる。
[小川 宏 2020年11月13日]