日本大百科全書(ニッポニカ) 「ナツメグ」の意味・わかりやすい解説
ナツメグ
なつめぐ
nutmeg
ニクズク(ニクズク科(APG分類:ニクズク科)の常緑高木)の果実の種子。古くから肉荳蔲(にくずく)とよばれた漢方薬でもあり、肉料理の主要な香辛料の一つ。インドネシア、モルッカ諸島が原産であるが、現在ではモルッカのほかに西インド諸島のグレナダ島やスリランカを主産地とする。開花後約6か月で果実が成熟して割れ、中から鮮やかな深紅色疎網状の仮種皮に包まれた黒褐色の殻が出てくる。この仮種皮が香辛料のメースで、仮種皮をはがして乾燥させた殻を割った中の褐色大粒の種子がナツメグである。
漢方では下痢、腹痛に用い、母乳促進、消化促進に効果があるとしていろいろな処方に配合される。二神丹(にしんたん)(食欲増進)、六君子湯(りっくんしとう)(下痢止め)、草荳蔲散(そうずくさん)(口臭止め)、通泉散(つうせんさん)(母乳促進)などが有名であり、芳香健胃剤としてもよく用いられる。大量に(大さじ一杯以上)食べると強い催眠と知覚麻痺(まひ)に襲われ、LSDと同様の時間・空間の失覚や非実在的幻覚をおこすが、頭痛、めまい、のどの渇き、心悸亢進(しんきこうしん)、嘔吐(おうと)のような後遺副作用はないという。
ナツメグのスパイシーで甘い刺激性の香りはメースとよく似ているが、味はまろやかなほろ苦さがあって、メースよりは強い。香辛料としては、肉の生臭さを消す矯臭作用が非常に強いので、肉料理、とくにひき肉料理には欠かせない。ハンバーグ、ミートボール、ロールキャベツ、コロッケ、メンチカツ、ミートソースにはかならず用いられる。また、ジャガイモ、キャベツ、ホウレンソウ、カブなどの野菜の甘味を引き出す効果もあるので野菜料理にも用いるほか、プディング、ケーキ、クッキー、ドーナツ、パイなどの菓子類の風味づけ、アレキサンダーやエッグノッグなどのカクテルにも愛好されるなど用途は広い。普通、乾燥粉末状で市販されているが、原形(ホール)のナツメグをおろし金でおろしたものは新鮮な芳香を楽しむことができる。
[齋藤 浩 2018年7月20日]