ニコチン酸(読み)にこちんさん(英語表記)nicotinate

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ニコチン酸」の意味・わかりやすい解説

ニコチン酸
にこちんさん
nicotinate
nicotinic acid

無色安定な水溶性ビタミンB複合体の一つ。3-ピリジンカルボン酸で、ヒト抗ペラグラ因子ナイアシンniacinともよばれる。分子式C6H5NO2、分子量123.11。ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドnicotinamide adenine dinucleotide(NAD)はその誘導体。まず、ニコチン酸とホスホリボシル二リン酸phosphoribosyl pyrophosphate(PRPP)からニコチン酸リボヌクレオチドnicotinate ribonucleotideが形成される。ニコチン酸はトリプトファン(必須(ひっす)アミノ酸の一つ)から生成される。食物からのトリプトファンの供給が十分な場合、ヒトは必要量のニコチン酸を合成できるが、その摂取が少ないと、皮膚炎、下痢、認知症を症状とするペラグラを発症することを1937年にアメリカの生化学者エルベームConrad Arnold Elvehjem(1901―1962)が証明した。ニコチン酸は広く動植物組織に分布し、肉類とくに肝臓に多く含まれる。トウモロコシの主要タンパク質であるツェインにはトリプトファンがほとんど含まれていないため、トウモロコシを常食とする地方にはペラグラが発生しやすい。またニコチン酸は、生体組織では遊離のものはなく、すべてニコチン酸アミドに変化してニコチンアミドヌクレオチド(ピリジンヌクレオチド)として存在し、生体酸化還元反応に関与している。

 ヒトの場合、トリプトファン60ミリグラムがニコチン酸1ミリグラムに相当するとされている。したがって、ニコチン酸の所要量は、この比率で計算したトリプトファンからのニコチン酸量を合計したニコチン酸当量として表示されることが多い。このニコチン酸当量の必要量は摂取エネルギーに基づいて算出されており、日本では1000キロカロリー当り6.6当量が基準として用いられる。また、過剰摂取した場合は、他の水溶性ビタミンと同様に尿中に排出される。

[有馬暉勝・有馬太郎・竹内多美代]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ニコチン酸」の意味・わかりやすい解説

ニコチン酸
ニコチンさん
nicotinic acid

ビタミンB 複合体の一つ。ナイアシンともいう。生体に広く分布し,特に穀物,豆類,肝臓,肉,酵母などに多い。酸味のある針状結晶。水には溶けるがエーテルベンゼンには溶けない。消化管から吸収されたニコチン酸は,生体内で補酵素 NAD に生合成される。医薬としてはビタミン B2 と同様にペラグラの予防および治療に用いられる。なお,インドール酢酸とともに植物の芽生えに与えると,その生長を促進する働きが知られている。

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