改訂新版 世界大百科事典 「ネコノメソウ」の意味・わかりやすい解説
ネコノメソウ
Chrysosplenium grayanum Maxim.
山地の湿地や水たまり,ときには水田にもはえ,しばしば群生するユキノシタ科の多年草で,早春,小さな目だたない花を開く。全体に淡緑色で,無毛,水気が多く軟弱である。蒴果(さくか)は上部が裂けて多くの種子をのぞかせるが,その果実のようすが,瞳孔を閉じた昼間のネコの目に似ているというので,この和名がつけられた。根茎は長く横にはい,花茎は立ち上がって葉を対生する。葉は広卵形で,縁に3~8対の内曲した鈍鋸歯がある。花茎の上部には茎葉とほぼ同型の苞が密につき,集散花序をつくる。苞はふつう黄色を帯びる。花には花弁はなく,4枚の萼裂片と4本のおしべがある。萼裂片は淡黄緑色で,卵円形円頭,内面はくぼみ,花時直立する。おしべは萼裂片の基部につき,萼裂片より短い。子房は下位,2心皮からなり,側膜胎座に多くの胚珠をつける。種子は茶褐色で光沢があり,一面に微細な乳頭状突起がある。南千島,北海道,本州,四国,九州に広く分布している。
ネコノメソウ属Chrysospleniumのおしべの数は基本的には8本であり,ネコノメソウのように4本のおしべに固定されている種はまれな例である。ネコノメソウ属は,北半球の温帯~寒帯に広く分布するが,南アメリカ南部にも2種が隔離分布している。約55種が知られ,とくにヒマラヤ,中国,日本にかけての地域に種数が多い。日本には14種が産し,そのうち約半数は日本の特産種である。この属はネコノメソウ,イワボタンC.macrostemon Maxim.,ボタンネコノメC.fauriei Fr.var.kiotense (Ohwi) Ohwi,ハナネコノメC.album Maxim.var.stamineum (Fr.) Haraのように葉を対生するものと,ヤマネコノメソウC.japonicum (Maxim.) Makino,ツルネコノメソウC.flagelliferum Fr.Schm.のように葉を互生するものとの二つの群に大きく分類され,花の色や種子表面の形状も種を見分ける重要な特徴となる。
執筆者:若林 三千男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報