フランスの財政家、政治家。ジュネーブ近郊のコッペの生まれ。イギリス系プロテスタントの家系に属し、父は法学教授。1747年パリに出て銀行員となる。1763年「チュルソン・ネッケル銀行」を設立、2年後には両インド会社理事として腕を振るい、1773年パリ・アカデミー懸賞論文「コルベール賛辞」が入賞。チュルゴーの穀物取引自由化策に反対の立場で、宮廷の一部勢力の支持を受けて1776年国庫局長、翌1777年財務長官に登用された。外国銀行からの借入金や、官職の削減、冗費の節約によって国庫収支の改善を図った。地方三部会をもたない地域で議会の導入を試み、租税の合理的配分や公共土木事業を自主的に計画させた。
1781年、宮廷貴族の年金などを財政報告で公表したため免職となったが、1787年、第一次名士会を前にカロンヌと財政をめぐり論戦したのち、1788年8月、財務長官に復職。第二次名士会に全国三部会の招集方式を諮問し、国務顧問会議で第三身分議員の倍増を認めさせた。三身分の合同討議には消極的であったが、1789年6月の国民議会成立のときはこれを追認した。その後、事態の責任をルイ16世王妃やアルトア伯から追及され7月11日罷免。これは民衆を憤激させ、このためバスチーユ占拠事件が起こった。復職後、立憲体制は受け入れたが、党派に属さず、アッシニャ紙幣の発行や国庫の管理をめぐって立憲議会と対立。1790年9月に最終的に辞職し、コッペに引退。『財政論』や『フランス革命論』などの著作活動で余生を送った。
なお、ロマン派の評論家・小説家として有名なスタール夫人は彼の娘である。
[岡本 明]
スイス生れでパリで活躍した銀行家,政治家。ジュネーブのプロテスタントの家に生まれ,1747年にパリに出て銀行家として成功し,やがて経済理論家としても知られるようになった。その経済思想は,重農学派の自由主義を批判して国家による統制を重視するものであった。77年に財務長官に任じられた彼は,財政の赤字を埋めるために公債政策をとり,租税負担を公平にするために課税方法の改革を試みた。しかし,アメリカ独立戦争への援助などにより財政はさらに窮迫し,公債政策はかえって国家の利子負担の増加を招いたので,行き詰まった彼は81年,《国王への財政報告書》を公表して実状を明らかにするとともに辞任した。84年に刊行した《フランスの財務行政について》は,当時のフランスの経済状態を知るうえで重要である。革命前夜の財政窮迫と政治的対立とが深まるなかで,彼は再び国王によって登用され,88年8月,国務長官になった。その翌年に全国三部会を開くことが決定されていたので,彼は全国三部会の定員や議決方式を第三身分に有利にするよう努力したが,貴族や宮廷の反対に会い,89年7月に罷免された。彼の罷免は民衆を憤激させ,バスティーユ占領のきっかけになった。そこで同月中に国王は彼を復職させたが,彼の努力によっても財政を改善することはできず,翌90年に彼は公職から隠退し,ジュネーブ近郊で死去した。なお,ロマン派の作家として著名なスタール夫人は彼の娘である。
執筆者:遅塚 忠躬
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1732~1804
フランスの銀行家,政治家。1777~81年,88~90年の2度にわたり財務総監に就任。能吏ではあるが独創性,政治性を欠く。財政緊縮,国債発行と世論の支持により危機を打解しようとしたが,三部会召集は結局,フランス革命の契機となった。
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…そこでルソーは,世論を習俗や慣習と並んで〈国家の真の憲法をなすもの〉〈人民にその建国の精神(社会契約)〉を呼びさますものとしているが,それ以上の追求をしていない。このことばはさらにルイ16世の財務長官ネッケルが保守派の貴族層に対抗して,〈金融市場の投機家たちは世論に支配されている〉として自己の政策を強行して以来,人口に膾炙(かいしや)するようになったという。しかし,フランス革命以来,世論とりわけ第三階級の意思としての世論は,政治権力の拠るべき基礎として決定的な重みをもつようになった。…
※「ネッケル」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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