ネムノキ(読み)ねむのき

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ネムノキ」の意味・わかりやすい解説

ネムノキ
ねむのき / 合歓
[学] Albizia julibrissin Durazz.

マメ科(APG分類:マメ科)の落葉高木。高さ6~9メートル。葉は2回羽状複葉、長さ20~30センチメートルで柄があり、7~9対の羽片が対生する。小葉は長さ0.5~1.5センチメートル、広披針(こうひしん)形で、おのおのの羽片に36~58個つく。葉は就眠運動により夜は下垂する。6~7月、枝先に十数個の頭状花序を総状につける。花は1個の頭状花序に20個前後つく。夕方、これらが同時に開き、紅色の長い雄しべを多数傘状に展開する。5枚の花弁は先端を除いて合着し、筒状となる。豆果は広線形で平たく、長さ10~15センチメートルあり、8~14個の楕円(だえん)形で平たい種子がある。本州、四国、九州の山野、とくに川原によく生え、朝鮮半島、中国、ヒマラヤ、インド、イランにまで分布する。庭木として植えられるほか、農具の柄(え)や細工物にも使われる。

 ネムノキ属は旧世界の熱帯暖帯に約150種ある。ネムノキはそのなかでもっとも北に分布する種である。

[立石庸一 2019年11月20日]

文化史

合歓は『神農本草経(しんのうほんぞうきょう)』には中品(ちゅうぼん)として身を軽くし、眠りをよくするなどの効用が載り、合歓の名は歓と昏(こん)の発音が似ているからとの説を引く。日本でも、夜に葉が閉じる現象は早くから注目され、『万葉集』に紀女郎(きのいらつめ)は「昼は咲き夜は恋ひ寝(ぬ)る合歓木の花君のみ見めや戯奴(わけ)さへに見よ」(巻8・1461)と詠む。ほかにも二首『万葉集』(巻8・1463、巻11・2752)に歌われる。長野県などではネムの葉は干して臼(うす)でつぶして粉香とし、盂蘭盆会(うらぼんえ)などに使った。台湾のパイワン族はタイワンネムA. procera (Roxb.) Benth.の樹皮の浸出液や葉をもんで髪を洗った。フィリピンバタン諸島ではヤエヤマネムA. retusa Benth.の樹皮を洗濯に用いた。

 象潟(きさがた)や雨に西施(せいし)がねぶの花  芭蕉(ばしょう)
[湯浅浩史 2019年11月20日]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「ネムノキ」の意味・わかりやすい解説

ネムノキ (合歓木)
silk tree
pink siris
Albizzia julibrissin Durazz.

暗くなると葉をとじて眠ったようにみえるためネムノキと呼ばれるマメ科の高木で,歌,詩,俳句などにも詠まれ親しまれている。ネム,ネブともいう。高さ10m以上に達し,林縁,原野など日当りのよい湿地を好む。葉は2回羽状複葉で,5~15対の対生する羽片をつけ,葉柄の基部に大きなみつ腺がある。小葉は15~40対あり,長さ6~12mm。7~8月に10~20花の集まった花序をつける。花は小型,放射相称で蝶形とならず,多数のおしべがあり,花糸は紅色で美しい。果実は扁平,広線形,茶褐色で無毛,長さ9~15cm,幅1.5~2cmの豆果。本州,四国,九州,沖縄から中国,東南アジアに広く分布する。材は建築,家具,細工物などに用いられ,樹皮や種子は漢方薬で打撲傷などの痛み止めに用いるという。街路や公園にも栽植される。

 ビルマネムA.lebbek Benth.(英名lebbek-tree,siris-tree)は熱帯地方の街路樹として広く栽培されている高木で,高さ15mに達し,広く枝を広げる。花は淡黄色で,小葉は4~8対あり,長さ2.5~4cm。果実は黄褐色で,幅2~5cmある。
執筆者:


出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ネムノキ」の意味・わかりやすい解説

ネムノキ(合歓木)
ネムノキ
Albizzia julibrissin; silk tree

マメ科の落葉高木。アジア東南部に広く分布し,日本各地の原野や河岸などにみられる。樹高6~10mに達する。葉は互生して2回羽状複葉で長さ 20~30cmになる。7~12対の羽片が対生し,各羽片の小葉は広披針形,長さ6~12mmで羽軸の両側に多数並ぶ。夜間葉を閉じ,就眠運動をするのでこの和名がある。6~7月に,枝先に十数個の頭状花序をつけ,夕方に淡紅色の長いおしべを多数もった花が傘形に集って開く。花弁は淡紅色で,癒合して小さな漏斗状をなす。果実は広線形で扁平,長さ 10~13cmの莢になる。庭木として植えられるほか,材は柔らかくもろいが屋根板,桶,箱材として用いられる。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

百科事典マイペディア 「ネムノキ」の意味・わかりやすい解説

ネムノキ

マメ科の落葉高木。本州〜沖縄,東〜東南アジアに広く分布し,日当りのよい山野の湿地にはえる。葉は大型の2回羽状の偶数複葉。7〜8月,小枝の先に散形状に紅色の花をつけ,日没前に開花する。花弁は合体し,先が5裂。おしべは多数あって,花糸は非常に長くて目立つ。豆果は9〜10月褐色に熟す。材は家具など,樹は庭木とする。小葉は夜,閉じて眠るように見えるので,この名がある。

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

今日のキーワード

プラチナキャリア

年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...

プラチナキャリアの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android