ドイツ・ロマン派のノバーリスの小説《ハインリヒ・フォン・オフターディンゲン》(未完,1802発表,邦訳名《青い花》)の冒頭で主人公ハインリヒが見る〈青い花〉の夢に由来する語。〈青い花〉の形姿は少女マティルデの形姿と重なり,同時に生と死を超越する〈永遠なるもの〉を暗示する。ここから〈青い花〉の語はロマン主義文学の根本理念である〈無限なるものへの憧憬〉を象徴する語となった。主人公が〈青い花〉を愛しつつ詩人として成長してゆく過程で,愛と詩の神秘的な力が強調され,ポエジーこそ精神と自然,人類と世界,永遠と時間の根源的な統一へ,つまり〈黄金時代〉へ人間存在が回帰してゆく歴史の神秘を啓示する力にほかならない。作品《ハインリヒ・フォン・オフターディンゲン》の中にドイツ・ロマン主義の歴史哲学,文学観,自然観が象徴的に表現されているといえよう。ヘッセの作品《あやめ》もまた,〈あやめ〉の形姿の中に同様な理念を象徴している。
→ロマン主義
執筆者:中井 千之
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ドイツ・ロマン派の詩人ノバーリスの未完の小説。1802年刊。原題『ハインリッヒ・フォン・オフターディンゲン』は主人公の名。ハインリッヒはある朝、青い花の夢をみて心ひかれる。やがて彼は旅に出て、青い花に面ざしの似た少女やさまざまな人に出会い、不思議な経験を重ねていくが、それは、夢にみた青い花を求める憧憬(しょうけい)の旅であり、自身が詩人となりゆくための旅路であった。この小説は、当時出版されたゲーテの『ウィルヘルム・マイスター』に多くを学びつつも、それが詩的でないことに不満を抱いたノバーリスの意欲的な作品で、不思議な童話が挿入されるなど、全体が詩的、童話的となっている。
[今泉文子]
『小牧健夫訳『青い花』(岩波文庫)』
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…また,ヘルダーリンの《ヒュペーリオン》(1797,99)の主人公は,自由な個人の存在を可能にする理想の国家の実現をめざしてギリシア独立戦争に参加しながら,戦争の現実に絶望して隠者となり,自然の美しさのなかにわずかな慰めを見いだす。また,ノバーリスの《ハインリヒ・フォン・オフターディンゲン》(1802,邦訳名《青い花》)は〈期待〉と〈実現〉の二つの部分からなるが,〈実現〉は未完のままで終わっている。これらの教養小説は,自己形成が既存の社会のなかでは不可能であることをその結末において示していることになるが,それだけでなく,《ウィルヘルム・マイスター》の〈遍歴時代〉や《ハインリヒ・フォン・オフターディンゲン》の〈クリングスオール・メルヘン〉の場合には,その構成がきわめて複雑にならざるをえなかったことが,主人公の自己形成の可能性を追求することの困難を告白しており,また《ヒュペーリオン》にはドイツの社会の現実に対する呪詛が書きこまれている。…
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