改訂新版 世界大百科事典 「ノルデステ」の意味・わかりやすい解説
ノルデステ
Nordeste
ブラジルの地域区分上の称で,北東部を指す。おおよそ南緯2°~16°,西経35°~47°にまたがる熱帯地域で,マラニョン,ピアウイ,セアラ,リオ・グランデ・ド・ノルテ,パライバ,ペルナンブコ,アラゴアス,セルジペ,バイアの9州とフェルナンド・デ・ノロニャ直轄領を含む。面積154万2271km2。ブラジル全国の18%を占める。人口3541万9156(1980)。最初の国勢調査(1872)では人口463万8560で全国の47%を占めていたが,この比率は年々減少し,1980年には29%を占めるにすぎない。自然増加率は高いが,他地域への転住者が多い。人口密度22.6/km2。人口は沿岸地帯に偏在し,内陸地帯は希薄である。おもな都市はみな沿岸に発達し,9州都中内陸都市はテレジナのみである。近年とくに大都市フォルタレザ,レシフェ,サルバドルへの人口集中が激化し,都市における貧困の問題は大きい。
今日では国内でも低開発と貧困の問題地域となっているが,かつてはブラジルでも最もダイナミックな地帯で,1763年まで首都はサルバドルにあった。大西洋岸沿いの高温湿潤なマッタと呼ばれる森林地帯には肥沃なマサッペ(黒色土)土壌が広がり,植民初期からポルトガル人によって大土地所有制と奴隷制に基づく砂糖のプランテーションが発達した(とくにペルナンブコ,バイア,アラゴアス地帯)。初めインディオが奴隷労働力として使役されたが,やがてアフリカ西海岸から大量に導入された黒人にとって代わられた。ノルデステの社会と経済はこの砂糖産業をめぐって構造化され,貴族的な白人農場主層と黒人奴隷への二大分裂を特徴としていた。独立自営の小農層の発達は遅れ,大農場への依存度の高い解放奴隷,混血層を主とした階層がわずかに形成された。
内陸地帯は砂糖地帯への食糧・原料補給地として開発され,最奥の半乾燥地帯セルトンでは牧畜業が,中間に位置し,やや雨の多い季節をもつアグレステでは穀物などの食糧生産,ワタ栽培などが行われる。18世紀以降はカリブ海地域の砂糖に圧倒されて停滞し,しだいに労働力輸出地帯に変わった。今日でも農業中心の地帯で工業化が遅れ,地域内1人当りの平均所得は全国平均の半分以下(1979年45%)である。政府は1959年に北東低開発庁(SUDENE)を置いてその総合開発に力を入れ,67年には工業誘致のための奨励策を法令化し,免税などの処置をとっている。こうして工業生産の総生産に占める比率は1960年の22%から79年の30%へ上昇した。内陸には頻繁に干ばつと飢饉に見舞われる〈干ばつの多角地帯(ポリゴノ・ダス・セッカス)〉が広く展開し,史上多くの難民・狂信者を出し,農民の反乱,メシアニズム,千年王国運動が頻発した。これらを主題に地方色豊かな文学作品の名作が数々生み出され,ブラジルにおける近代文学運動の最大の推進主体となった。E.daクーニャ,J.A.deアルメイダ,J.アマド,G.ラモス,R.deケイロス,J.L.doレーゴらがその代表である。民俗・民芸上の作品も多彩で,国内外からの観光客が多い。
執筆者:前山 隆
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報