ファゼンダ(英語表記)fazenda

改訂新版 世界大百科事典 「ファゼンダ」の意味・わかりやすい解説

ファゼンダ
fazenda

ブラジル農村的大所有地,つまり大農場または大農牧場を指す。リオ・グランデ・ド・スル州では大農牧場はエスタンシアestânciaと呼ぶ。ファゼンダはスペイン語のアシエンダhacienda,英語のエステートestateと同義で,財産,資産を意味するが,植民地における資本主義の進展のなかで,農村における個人の大所有地,大農場が発生し,これをファゼンダと呼ぶようになった。主生産物名をつけてコーヒー・ファゼンダfazenda do caféとか牧牛ファゼンダfazenda de gadoなどと呼ぶ。大土地所有地という意味でラティフンディオと同義でもある。

 ブラジルでは,歴史的に植民地制度下における分与地セズマリアに由来するものが多く,時代,地域によりいくぶん性格を異にする三つの類型に分けることができる。16~17世紀に形成され最も古い北東部の大農園Fazenda Nordestinaは,地主と奴隷労働を基本的生産関係とし,サトウキビが主作物で,耕地は集中し,地主の邸宅(カーザ・グランデcasa grande),礼拝堂,製糖場,奴隷小屋,木工場その他の作業場は中心部に集まっている。18世紀以降形成された中部ミナス・ジェライスの大農牧場Fazenda Mineiraは,世襲的農奴の労働力に依拠し,牧牛またはコーヒー栽培を主とし,農奴は分散的小作地と孤立住宅に居住する。境界山稜や川できられる。19世紀以降形成されたサン・パウロの大農場Fazenda Paulistaは,コーヒー栽培を主とし,コロノ(契約請負労働者)労働に依拠し,地主の邸,教会,コーヒー乾燥場等の作業場は中心部に,コロノの住居はその付近に集中して,コロニアと呼ばれる社会を形成する。これらの大農牧場は,外部に対しては商品生産を行うが,内部的には自給的・閉鎖的で経済的・社会的な単位を形成し,かつては,農牧場内では,地主が実質的に司法権をもっていた。現在では,賃労働形態が一般化してきているが,大土地所有制は維持され,伝統的な社会関係を維持するパトリ(世襲的社会)を形成している例も少なくない。

 他方,上述のような社会経済的性格づけから離れて,現在では数百ha以上の大農牧場をファゼンダと呼ぶようになった。この場合200~300haの規模の小型のファゼンダをファゼンドーラfazendolaと呼び,さらに規模の小さい,主として家族労働に依拠する農場をシティオsítio,またはシャカラchácaraと呼ぶ。
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百科事典マイペディア 「ファゼンダ」の意味・わかりやすい解説

ファゼンダ

ブラジルの大農場または大農牧場(リオグランデ・ド・スル州ではエスタンシアと呼ぶ)を指す。植民地制度下における分与地セズマリアに由来するものが多く,時代,地域によって三つの類型がある。(1)16―17世紀に形成されたもっとも古い北東部(ノルデステ)の大農園。地主と奴隷労働を基本的な生産関係とし,サトウキビが主作物。耕地は集中し,地主の大邸宅(カーザ・グランデ),礼拝堂,製糖場,奴隷小屋などがその中心部にある。(2)18世紀以降形成された中部のミナス・ジェライス州の大農牧場。世襲的農奴の労働力に依拠し,牧牛またはコーヒー栽培を主とし,農奴は分散的小作地と孤立住居に居住。(3)19世紀以降形成されたサン・パウロ州の大農場。コーヒー栽培を主とし,コロノ(契約請負労働者)労働に依拠する。地主の邸宅,教会,作業場などは中心部に,コロノの住居はその付近に集中して,コロニアと呼ばれる社会を形成。これらの大農牧場は外部に対しては商品生産を行うが,内部的には自給的・閉鎖的で一つの社会単位を形成していた。現在も大土地所有制は維持され,数百ha以上の大農牧場をファゼンダと呼んでいる。
→関連項目アシエンダ

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ファゼンダ」の意味・わかりやすい解説

ファゼンダ
fazenda

ブラジルの農園制度。また大規模なコーヒー園やサトウキビ園のこともさす。地主がコロノ (移民) に住宅や農具を貸与し,4年または6年契約で土地を開墾させ,コーヒー栽培をさせる一種の請負開墾制。4年契約では1回,6年契約では3回のコーヒー収穫はコロノの収入となり,契約期間が終わると開墾地を返還させる。コーヒーが結実するまでの4年間は綿花,サトウキビ,キビ,米などの間作や家畜を飼育して生活する。大規模なものは学校,事務所,教会,病院などを併設している。

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世界大百科事典(旧版)内のファゼンダの言及

【家】より

…【後藤 晃】
【ラテン・アメリカ】
 アルゼンチンなど白人が人口のほとんどを占める地域を除けば,ラテン・アメリカは,インディオの人口密度が高く,その伝統的文化の強い中米からアンデスにまたがる高原地帯と,熱帯作物の単一栽培と黒人奴隷の子孫の存在に特徴をもつカリブ海全域からブラジルにかけてのプランテーション地帯に大別されうる。長い植民期を通じて両地域は,アシエンダファゼンダなどと呼ばれる大土地所有制に基づいた農業経営単位を巡って構造化が進み,それぞれが社会のおもな構成単位をなしていた。独立自営の小農層による村落共同体の形成はきわめて弱く,社会はアシエンダやプランテーションの累積であったといえる。…

【プランテーション】より

…これらのプランテーションの多くが植民地時代に始まっており,第2次大戦後に独立を達成した時期に,経営が国有化されたり(インドネシア,キューバ),ブラジルなどのように独自の道を歩んだ場合もあるが,それぞれの国情と歴史的条件のなかで特色ある発展をみせている。そこでその名称も,マレーシアやインドネシアの〈エステートestate(企業農園)〉,ブラジルの〈ファゼンダfazenda〉などのように,独自の呼名をもっている場合もある。その成立する契機と特色からも明らかなように,プランテーション経営は前近代的な労働力雇用と資本制大規模農企業経営として発展し,生産物は輸出を目的としているため,各国は独立達成後もその国民経済は旧支配国からの自立が困難な場合もあり,経済的に従属性を払拭しきれないままになっていることが多い。…

【モラドール】より

…〈居住者〉の意。ブラジルのファゼンダ,とくに北東部のサトウキビ大農場で農場内に居住する隷農を指す。歴史的には,17,18世紀,ブラジルの北東部の奴隷労働に基づく砂糖農園(エンジェーニョ)の成立,発展の過程で現れる。…

【ラテン・アメリカ】より

…ブラジルにおいては,セズマリア制は1850年の土地法によって完全に廃止され,さらに88年に奴隷制度も廃止された。この時期に南部のサン・パウロ州に発展したコーヒー生産は,前期においては奴隷労働に依拠する領主経営的大農場(ファゼンダ)で行われていたが,19世紀末からは,移民の導入による請負契約労働者(コロノ)に移行し,20世紀には,内陸フロンティアでは移民による,おもに家族労働に依拠する独立小生産者層と,その分化による大農場の成立をみるようになった。 ラテン・アメリカの大土地所有制ラティフンディオの起源を,19世紀における資本主義の発展期に求める説は,上述の歴史的事実に依拠している。…

※「ファゼンダ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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