アメリカ大陸におけるヨーロッパ系白人と黒人の混血をよぶ。16世紀のなかば以来、征服者であるヨーロッパ系白人(主としてポルトガル人)、奴隷やプランテーション労働者として連れてこられたアフリカ系黒人、それに土着のインディオの間で混血が進んできた。こうした混血者の増加と、混血タイプの複雑な分岐は、白人、インディオ、黒人というカテゴリーのほかに、さまざまな名称体系(カスタの分類体系)を生み出した。ことにメキシコやペルーではムラートをはじめとする細かいカスタの分類が記録されており、どこまで実際に用いられたかはともかく、19世紀前半まで存続したという。ただしムラートは、ブラジルではムラットとよび、白人と黒人の混血をさす。身体的特徴としては、中背、中頭、狭鼻、黒色あるいは褐色の瞳(ひとみ)、厚い口唇があげられる。頭髪は黒人に似て縮れてはいるものの、まっすぐにすることは可能であり、皮膚の色も明褐色から暗褐色と、その幅は広い。これは混血の度合いや地域性などの要素と関係しており、明色系ムラットと暗色系ムラットとに分ける研究者もいる。
ブラジルの場合、こうした混血種を含めて、各人種が社会的、経済的に同質の集団として上下関係をもって位置づけられてはおらず、総人口の20%以上を占めるムラットが、いわゆる上層階級で活躍することもまれではない。これが、ブラジルが自国を人種上の民主主義を実践している国と誇っている理由でもあるが、しかし、まったく人種的偏見がないというわけではない。黒人活動家を中心に、ムラットと黒人の区別は、過去において白人が単に皮膚の色を基準につくりあげた区別であって、人種的識別に基づいたものではないという議論が高まっていることも忘れてはならない。
[関 雄二]
白人と黒人の間に生まれた混血児。とくにブラジル北東部の人種構成において重要。現在のブラジルの場合,パルド(褐色系)と分類されることが多く,社会的に進出している。奴隷制期のカリブ海域にも存在した民族分類である。植民地時代のメキシコでもムラートと名の付く多くの肌の色の分類があったが,独立期に混血が進むにつれて消え,現在では黒人的な人口はベラクルス州やゲレロ州の海岸部にわずかに認められるにすぎない。
→メスティソ
執筆者:黒田 悦子
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ラテンアメリカの混血者集団のうち,白人と黒人の混血者をさす。白人と先住民(インディオ)の混血であるメスティーソや,先住民と黒人の混血者であるサンボと区別される。ムラートは,黒人人口の多いカリブ海地域やブラジルその他の熱帯性気候の海岸低地地方に多い。
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「ムラット」のページをご覧ください。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…これは支配遺伝子の分離によっていろいろな新しい組合せができるためと考えられる。たとえば白人と黒人との混血によって生じたムラートの皮膚色調には,白人にごく近いものから黒人に近いものまでごく広い幅の変異が現れる。多くの遺伝子に支配されると思われる形質,たとえば頭形などでは,混血集団内の変異度が母集団内のそれに比べて大差ないこともまれでないが,全体としてみれば混血集団内の変異の幅は各母集団よりも広くなるのであって,このことは将来起こりうる環境の変動に対し,弾力性が高まることを意味し,生物学的に望ましい状態といえる。…
…現在のラテン・アメリカでは国民文化の担い手とされているが,植民地時代の社会的地位は低かった。とくに,16世紀には不法な交わりから生まれた者として社会的に認められず,ムラート(白人と黒人との間の混血)とともに法的には最下位を占めた。しかし,時代が下るにつれ人口も増え,社会的地位も安定し,植民地時代における平均的地位は,次のように各種の人種の中間に位置した。…
※「ムラート」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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