ハナシノブ(その他表記)Polemonium kiushianum Kitam.

改訂新版 世界大百科事典 「ハナシノブ」の意味・わかりやすい解説

ハナシノブ
Polemonium kiushianum Kitam.

九州山地草原にまれに生育するハナシノブ科多年草。茎は短くはう根茎から直立し,高さ50~100cm。葉は奇数羽状複葉で互生し,長さ15~20cm。披針形の小葉が10~12対,対生する。シダに似た葉形から和名がついた。6~8月ごろ,青紫色の美しい花が茎頂集散花序をなして密につき,ややうつむいて咲く。花序には腺毛がある。花冠は漏斗形の合弁花冠で,放射状に深く5裂し,径2.5~3cm。萼の裂片は筒部と同長。おしべは5本。長い花糸がある。子房は上位で3室からなり,柱頭も3裂する。果実は球形蒴果(さくか),長さ2mmほどの紡錘形種子を入れる。日本にはほかにミヤマハナシノブP.caeruleum L.ssp.yezoense Haraが,本州中部の高山帯および北海道に生育する。ハナシノブに比べ,大型の花(径4cm内外)がまばらにつき,萼が深裂する点が異なる。

 ハナシノブ属Polemoniumは北アメリカを中心に20余種あり,いずれも美しい花をつける。ヨーロッパで観賞用に品種改良されたものが〈ハナシノブ〉の名で栽植されるが,ミヤマハナシノブの基本変種P.caeruleum L.(英名Jacob's-ladder,charity,Greek valerian)のことが多い。

 ハナシノブ科はムラサキ科近縁の合弁花植物で,世界に18属320種あり,日本には本属のみが産する。フロックス属のシバザクラクサキョウチクトウなどが観賞用に栽培される。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ハナシノブ」の意味・わかりやすい解説

ハナシノブ
はなしのぶ / 花忍
[学] Polemonium caeruleum L. subsp. kiushianum (Kitam.) H.Hara
Polemonium kiushianum Kitam.

ハナシノブ科(APG分類:ハナシノブ科)の多年草。茎は直立し、高さ60~90センチメートル。葉は互生し、羽状複葉。小葉は広披針(こうひしん)形で長さ1.5~4センチメートル、幅0.3~1.5センチメートル、先端はとがる。夏、円錐(えんすい)花序をつくり、青紫色花を開く。花冠は高坏(たかつき)形で径1~1.5センチメートル。蒴果(さくか)は球形で径4~5ミリメートル。種子は長さ約2ミリメートル。山地の草原に生え、九州北部に分布する。名は、葉の形がシダ植物のシノブを思わせることによる。ミヤマハナシノブ(エゾハナシノブ)P. caeruleum L. subsp. yezoense H.Haraは、花は径1.8~2.5センチメートル、種子は長さ3~4ミリメートルと大形である。中部地方以北の本州の高山、北海道の山地に分布し、変異が多く、地域ごとに変種や品種に分けられる。

 ハナシノブ属は北半球、南アメリカに広く分布し、約50種知られる。一部のものは園芸植物として栽培される。

[山崎 敬 2021年3月22日]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ハナシノブ」の意味・わかりやすい解説

ハナシノブ
Polemonium kiushianum; Jacob's ladder

ハナシノブ科の多年草。九州の山地の草原にまれに生える。茎は直立し高さ 1mに達する。葉は奇数羽状複葉で互生し,小葉は披針形で先がとがる。夏に,枝先にやや密に円錐花序をなして,紫色の美しい花をつける。萼は鐘状で5裂し,花冠は深く5裂して背面と縁に短毛がある。おしべは5本で花冠の片側にかたよってつき,花冠より上へ出る。めしべの柱頭は3裂する。果実は球形の 蒴果で,残存する萼に包まれる。日本には本種のほかに本州中部の高山に生えるミヤマハナシノブ P. nipponicumがある。本科はアメリカ大陸に多く,約 300種が知られ,クサキョウチクトウ一名オイランソウ Phlox paniculata,ハナツメクサいわゆるモスフロックス Phlox sublataなどは広く栽培されている。

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百科事典マイペディア 「ハナシノブ」の意味・わかりやすい解説

ハナシノブ

九州の山地草原にはえるハナシノブ科の多年草。花壇にも植えられる。高さ70〜100cm内外の直立した茎に奇数羽状複葉をつける。花は夏,茎頂に円錐状につき,青紫色で径2cm内外,花冠は深く5裂する。萼(がく)は鐘状で,花冠が落ちてもあとに残る。種子は秋まきするが,株分けでもよい。近縁のミヤマハナシノブ(エゾハナシノブとも)が本州中部の高山や北海道の草原にはえる。花はやや大きい。

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