翻訳|habitat
すみ場所,生息場所,生息環境など,さまざまな日本語に訳されてきた生物学の概念。単純にいえば,それぞれの生物がすんでいる特有の〈場所〉のことであるが,その用法についてはかなりの混乱がみられ,しばしば環境やドイツ語圏でいうビオトープBiotopeも同義に用いられる。
〈場所〉というのはおおざっぱにいって三つの内容がある。(1)アメリカにいるとか北海道にしかいないとかの大きな地理的地域,(2)川沿いの林とか日当りのいい南斜面とか渓流とかいうことばで表現される〈場所〉,(3)とくに草や小動物についてであるが,樹幹の割れ目とか落葉の下とか早瀬の石の下とかの〈場所〉である。(2)のものはしばしば〈大雪山〉とか〈尾瀬ヶ原〉とか固有名詞の地名で表現されることがあって,実際には(1)との間に線が引きにくいが,植生や地形などの生態的条件に注目したものである。また,(2)と(3)との間にも具体的には線が引きにくいが,(2)のほうが平面的な広がりをもつ大きい場所であり,(3)はその場所の中の小さな場所といえる。ハビタットの概念は,本来この(2)の〈場所〉をさすものであったが,(3)の〈場所〉にまで拡張して用いられるのが現状で,そこに混乱の一つがある。
また,それとは別に,ハビタットということばは二つの異なった使い方をされる。一つは生物を中心にしたもので,シカのハビタットはこれこれこういう場所である,スズメのハビタットとメジロのハビタットは違う,などの用い方である。もう一つは場所を中心にしたもので,このハビタットには何と何がすんでいる,この地域にはこれこれこういうハビタットがある,などの用い方である。本来は前者の意味で用いるべきなのであるが,後者のように用いる人がしばしばあって,ここにも混乱がみられる。
ハビタットの概念が重視されるようになったのは,20世紀に入って生態学と進化学が発展をみせて以後で,しばしば近縁種がハビタットを違えてすみわけ,近縁種がいない地域ではより〈広い〉ハビタットをもつこともあるというような事実がわかってからのことである。今日,ハビタットは生態的地位と並んで(またはその一部として)重要な生態学的概念であり,種間競合,種の多様性,種分化などの問題を扱うためには,欠くことのできないものとなっている。
執筆者:浦本 昌紀
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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