K.ラントシュタイナーが1921年に人工抗原の研究に際して提唱した概念上の抗原決定基。ラントシュタイナーの定義によれば,独立では抗原性をもたないが,他のタンパク質(担体)と結合させて投与すれば,特異的な抗体をつくらせ,その抗体と結合する能力を有する低分子物質をさす。現在では抗原決定基はエピトープと呼ばれ,ハプテンの語はより広く,抗原の示す2種の機能,すなわち,抗体をつくる性質とその抗体と反応して血清学的反応を起こす能力の一方または両方を,いろいろの度合で欠く不完全抗原の総称としても用いられる。
今日一般にハプテンと呼ばれるものには次の二つがある。
(1)狭義のハプテン(付着体ともいう) 単独で動物に与えても抗体をつくらないが,できた抗体とは通常の反応を示すもの。精製した多糖体や脂質などがこれに属し,半抗原とも呼ばれる。ハプテンの種類によって条件は同じでないが,タンパク質などと混ぜたり(このときのタンパク質は付着体を抗体産生部位に運ぶという意味で曳行体(えいこうたい)schlepperという),カオリン等の吸着剤に吸着させて動物に与えると,その抗体がつくられる。したがって,精製した菌体多糖体のように,それ自身は付着体でも,菌を構成したままの状態で体内に入ると抗体をつくる能力をもつような場合もある。
(2)セミハプテン(半付着体ともいう) 抗原としての性質はさらに低く,それ単独の使用では抗体をつくらず,通常の血清学的反応も起こさないがすでにできた抗体と結合能をもつ。このことは抑制反応など特殊な方法で証明できる。分子量の小さい簡単な化合物がこれに属するので単純化学物質とも呼ばれる。これの適量をタンパク質等に化合させた人工抗原をつくって生体に与えると,その部分を決定群とした抗体ができる。このときのタンパク質を担体(キャリアcarrier)というが,免疫時それに対する抗体もできるので,その影響をさけるため,まったく別の担体タンパクに同じ半付着体を結合させた試験抗原を用い抗体の検出定量等を行う。この方法でハプテンの化学的構造と抗体の特異性の関係がこまかく調べられている。これに属するものに,ジニトロフェノール(DNP),アルサニール酸,スルフォン酸,ペニシリンのベンジルペニシロイール基(BPO)などがあり,この半付着体に属する。また,BPOのように自然でもタンパク質と結合しやすいものは体内のタンパク質に結合して抗体をつくることがあるが,その状態のところに同じものが再び入ると各種の型のアレルギーを起こす。そのような薬品,香料,色素などが多数知られている。
→抗原 →免疫
執筆者:木村 一郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
抗原の一部あるいは低分子物質で,単独では抗体産生を誘起しないが,対応する抗体とは沈降反応などの目に見える反応を起こす物質.たとえば,肺炎菌の莢(きょう)膜から得た多糖体は,ウサギに接種してもそれに対する抗体は産生されないが,肺炎菌をウサギに接種して得た抗体とは沈降反応を起こす.また,抗体産生能もなく,対応する抗体と沈降反応などの反応も起こさないが,抗体と抗原との反応を阻害する物質があり,単純ハプテン(simple hapten)と名づけられる.たとえば,上記の多糖類の部分分解物は,ウサギの抗肺炎菌血清と肺炎菌,あるいは多糖体との沈降反応を阻害する.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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