ハラージュ(その他表記)kharāj

改訂新版 世界大百科事典 「ハラージュ」の意味・わかりやすい解説

ハラージュ
kharāj

イスラム法に定める地租ムハンマドはアラビア半島において,ユダヤ教徒とキリスト教徒からジズヤアラブからザカート徴収した。ジズヤは人頭税,ザカートは家畜農産物現物徴収であり,当時アラビア半島では土地そのものに対する課税はなかった。アラブは大征服時代にサワード地方で初めて土地に対する課税を知り,征服地の住民に人頭税と,収穫のほぼ半分に当たる地租とを課した。しかし人頭税と地租は併せて村落単位で一括徴収されたため,実務上も用語上も両者を区別する必要がなく,両者を併せたものが旧ビザンティン帝国領ではジズヤ,旧ササン朝領ではハラージュと呼ばれていた。ウマイヤ朝カリフ,ウマル2世ジンミーのイスラムへの改宗を奨励するに及び,ジンミーとマワーリー租税負担に差を設ける必要が生じ,地租は両者に課せられるが,人頭税はジンミーにだけ課せられるようになり,人頭税ジズヤ,地租ハラージュという用語の区別が確定した。他方,事実上免税特権をほしいままにし,あるいは所有地からウシュルを支払うだけにすぎなかったアラブ・ムスリムから,マワーリーと同じくハラージュを徴収する政策がとられた。そのために利用されたのが国家的土地所有の理論で,それによれば征服地はムスリム全体の所有に属する不可分土地財産ファイで,これを用益するアラブ・ムスリムは地代としてのハラージュを国家に納めなければならず,それはジンミー,マワーリーの納めるハラージュと同額であるとするものである。ハラージュは貨幣または現物,あるいは両者の併用で徴収され,その課税方法には土地面積に応じて毎年一定額を徴収するミサーハと,毎年の実際の収穫のほぼ半分を徴収するムカーサマとがあった。ハラージュ徴収の事務をつかさどる役所がディーワーン・アルハラージュで,それは帝国の首都と各州の州治に設けられていた。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ハラージュ」の意味・わかりやすい解説

ハラージュ
はらーじゅ
Kharāj

イスラム法が定める土地税。預言者ムハンマド(マホメット)がユダヤ教徒の農地からの収穫の半分を貢献させたことに起源をもつ。正統カリフ時代(632~661)、イスラム教徒は広大な地域を征服し、支配した。イスラム教徒は被支配者に、おおむね旧支配者が課していたのと同程度の税を課した。被支配者のなかからイスラムに改宗する者が多くなるにつれて、彼らからの税の徴収をどう合法化するかの問題が生じた。耕す人が非イスラム教徒であれ、改宗者であれ、税は土地そのものに課せられる、という土地税の概念が8世紀初頭に確立し、その土地税をハラージュとよぶようになり、ハラージュが課せられた農耕地はハラージュ地とよばれ、ここにイスラム税法が完成した。

[後藤 明]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

旺文社世界史事典 三訂版 「ハラージュ」の解説

ハラージュ
kharāj

イスラーム法に定められた地租
初めはイスラーム教徒支配下の異教徒の貢ぎ物(金納または物納)を意味したが,ウマイヤ朝後半の8世紀以後は,ジズヤ(人頭税)に対して,土地や家畜による収入に課す租税(金納または物納)をさす用語となった。農耕地の征服拡大もあり,国庫収入に大きな割合を占め,ムアーウィヤにより租税庁が設立されるなど,早くから徴税制度が整えられた。当初は土地面積に対する一定額を収めるものであったが,8世紀の後半には収穫の半分を収めさせた。被征服民にとっては,イスラームへの改宗後も免除されることなく,こうした租税面での差別待遇がウマイヤ朝打倒の要因の1つとなった。アッバース朝時代には,アラブ人イスラーム教徒にも課された。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「ハラージュ」の解説

ハラージュ
kharāj

「地租」を意味するアラビア語。ウマルのとき南イラクで徴収したのが最初で,貨幣または現物,および両者の併用で徴収された。国庫収入の大部分を占め,ムアーウィヤは,その徴収事務を行う役所ディーワーン・アル・ハラージュ(租税庁)を設けた。最初土地面積に応じて一定額を徴収していたが,8世紀末から実際の収穫の半分を徴収する方法がとられた。

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