改訂新版 世界大百科事典 「ウシュル」の意味・わかりやすい解説
ウシュル
‘ushr
1/10を意味するアラビア語。複数形はウシュール`ushūr。イスラム法では,(1)ムスリム(イスラム教徒)のザカートのうち土地に課せられるもの,(2)ムスリムとジンミーの商人に課せられる商業税,(3)ハルビー(敵国人)の商人に課せられる関税を意味する。その率は,(1)は天水・流水灌漑の場合は生産物の10%,人力・畜力または特別の灌漑施設を必要とする場合は5%,(2)はムスリムから年収の2.5%,ジンミーから5%,(3)は彼らがダール・アルイスラーム(イスラム世界)に入った時,商品価格の10%である。コーランにウシュルという言葉は見られないが,イブン・イスハーク,イブン・サードなどのムハンマド伝によれば,ムハンマドはアラブの耕作者からナツメヤシの収穫の10%を現物で徴収した。これは土地の生産物への課税であって,土地そのものへの課税ではない。大征服時代になって,征服地で土地に課税されるようになると,マワーリーとジンミーの土地から収穫のほぼ半分に当たる地租ハラージュが徴収されたのに対し,アラブ・ムスリムの所有地からは,ウシュルが徴収されたにすぎなかった。のちアラブ・ムスリムにもハラージュが課せられるようになったが,特権的なアラブ・ムスリムの私有地や,カリフや総督から授与されたダイア(私領地)やカティーア(分与地)はウシュリー(ウシュル地)として,ウシュルを支払うだけでよいとされたが,アッバース朝時代にウシュリーは,しだいに廃止されていった。
→マクス
執筆者:嶋田 襄平
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報