ニッケル合金(読み)ニッケルゴウキン(その他表記)nickel alloy

デジタル大辞泉 「ニッケル合金」の意味・読み・例文・類語

ニッケル‐ごうきん〔‐ガフキン〕【ニッケル合金】

ニッケル主体とする、または多く含む合金。ニッケルは鉄や銅と容易に溶け、高強度、耐酸化性に優れた合金となる。ステンレス鋼白銅などが知られる。

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改訂新版 世界大百科事典 「ニッケル合金」の意味・わかりやすい解説

ニッケル合金 (ニッケルごうきん)
nickel alloy

ニッケルを主成分とする合金で,工業用純ニッケル,ニッケル-鉄系,ニッケル-銅系,ニッケル-クロム系,ニッケル-クロム-鉄系,ニッケル-モリブデン系などがある。全般的に優れた耐食性,耐熱性を示し,ますます多様化し過酷となっている化学環境に耐える耐食材料,より高温での使用をめざす耐熱材料として重要である。また優れた電磁気的性質を示す合金もある。ニッケル全体の用途からいえば,ステンレス鋼への添加元素が最も多く,その他の特殊鋼への添加元素として鋼の性質改善にも使用される。また,めっき材料としても重要である。

ニッケル+コバルトが99%程度以上の純度であって,加工性はよく,板,棒,線,管などいろいろの形状に加工して使用される。また,溶接性もよい。耐食性のよいことも特徴であって,アルカリ溶液,高温のハロゲンガス,あるいは塩酸などの非酸化性酸によく耐える。また,大気腐食に対する耐食性もよいことは,めっき材料として広く使用されていることからもわかる。耐食材料としての用途のほかに,真空管用の陰極板などの用途もある。

ニッケル35~90%にわたる合金は高い透磁率を示し,パーマロイと呼ばれる優れた磁性材料である。ニッケル量と添加元素によって特性の異なる一連の合金がある。また,熱膨張係数がきわめて小さいインバーなど特色のある合金もある。

ニッケルと銅とは組成の全域にわたって固溶し,銅量の広い範囲にわたって種々の実用合金がある。銅の量が多く銅合金に分類されるものには,ニッケル20%の白銅があり,ニッケル45%のコンスタンタンは電気抵抗線として使用される。ニッケル-銅合金で有名なものは,モネルメタルと呼ばれるもので,元来カナダ産の鉱石から直接に製錬される自然合金である。銅30%のほかに少量の鉄,マンガンなどを含む。この合金はニッケルのもつ耐食性をさらに改善したもので,大気,水あるいは海水,ハロゲン,アルカリ溶液,希薄塩酸など種々の環境に耐え,また強靱(きようじん)でもあるので,広く使用される耐食材料である。アルミニウムチタンを添加し,析出硬化性をもたせた高強度のもの(Kモネル)あるいは鋳物用の合金もある。

クロム10~30%,鉄0~30%程度のニクロム系合金は耐熱性がよく,電熱線として使用されており,またアルメル-クロメル熱電対は測温に広く使用されている。この合金は,その後の超耐熱合金の開発の基礎となったもので,アルミニウムとチタンを少量添加し,析出硬化性を与えた一連のナイモニック合金が開発された。耐酸化性のよいニッケル-クロム素地にγ′相と呼ばれるNi3(Al,Ti)を析出分散させて高温強度を増加させるという考え方は,ニッケル基超耐熱合金の基本である。

この系統を代表するものはニッケル76%,クロム16%,鉄8%の合金で,インコネル600と呼ばれる。塑性加工性も溶接性もよく,各種の形状に加工され使用される。ニッケル基合金の耐食性の特徴に加えて,クロムの添加により,酸化性環境での耐食性が改善されており,優れた耐食・耐熱合金である。さらに,アルミニウム,チタン,ニオブ,モリブデン,タングステンなどを添加し性質を改善した一連の合金がある。

この系統を代表するものは,モリブデン28%と鉄5%を含むハステロイBであって,非酸化性の酸に耐えるニッケルの特徴を改善したものである。とくに塩酸には沸点までの温度範囲で全濃度に耐える。また,モリブデンの約半分をクロムで置き換えたハステロイCは,クロムの効果により酸化性環境での耐食性をもたせたものである。この合金系にも,さらに添加元素を加えた改良合金がある。

スーパーアロイsuper alloyとも呼ばれる超耐熱合金は,主としてジェットエンジンのタービンブレードなど高温・高応力下で使用するものとして開発された一連の材料の総称であるが,このなかでもニッケル基合金が主流である。ニッケル30~75%,30%程度までのクロム,35%程度までの鉄,20%程度までのコバルトなどを組み合わせ,さらに少量のアルミニウム,チタン,ニオブ,モリブデン,タングステンなどが添加されている複雑な合金であり,種類はきわめて多い。上述のナイモニック,インコネル,ハステロイ系の合金もこのなかに含まれる。とくに高温強度を追求していくと,γ′相生成のためのチタンとアルミニウムの量が多くなり,加工が困難になるので,とくに高温用のものは鋳造用合金として,精密鋳造によってジェットエンジン部品などが製造されている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ニッケル合金」の意味・わかりやすい解説

ニッケル合金
にっけるごうきん
nickel alloys

ニッケルを主成分とする、あるいはニッケルを多量に含む合金。ニッケルは化学的腐食に対する有効な保護被覆材となる経済的な材料であるので、その生産量の約20%はニッケル板あるいは合せ板として純ニッケルのままで用いられる。ニッケルは鉄、銅などと容易に任意の割合で溶け合い、種々の特性をもつ合金となるので、その生産量の約50%は鉄との合金、約25%は銅との合金として用いられる。

 ニッケルはステンレス鋼の主要成分(主成分は鉄、他の主要成分はクロム)であり、ニッケル生産量の約40%はこのステンレス鋼用に消費されている。ステンレス鋼は優れた耐腐食性をもち、しかも強靭(きょうじん)なので、化学装置、食品処理装置、調理用器具などに多量に用いられている。ニッケル・クロム含有量のさらに高いものは耐熱鋼として高温部分に使用される。さらにニッケル量の多いニッケル基合金には、現在もっとも耐熱性の優れている汎用(はんよう)耐熱合金(アルミニウム、チタンなどを主要成分とし、超合金と称される)やTD‐ニッケル(酸化タリウム分散強化ニッケル合金)などがある。ニッケルは鋼の強靭性を向上させるので、合金鋼中にはニッケルを0.5~10%含むものが多い。

 ニッケルと銅の合金は耐食性に優れているので、建築材料、化学・食品処理装置、船舶・発電装置などに用いられる。代表例としてはキュプロニッケル(2.5~45%ニッケル)やモネルメタル(67%ニッケル)などがある。そのほかニッケル含有合金には、電気抵抗合金(例ニクロム=10~35%クロム、残部ニッケル)、磁石合金(例アルニコ=5~24%コバルト、3~6%銅、8~12%アルミニウム、14~32%ニッケル、残部鉄)、熱膨張制御合金(例アンバー=30~60%ニッケル、残部鉄)、熱電対(でんつい)合金(例アルメル=2.5%マンガン、2%アルミニウム、1%シリコン、残部ニッケル、クロメル=10%クロム、残部ニッケル)など種々のものがある。さらにニッケル硬貨(25~100%ニッケル、残部は銅や亜鉛など)は世界各国で広く使用されている。これよりニッケル量の少ないニッケルシルバー(洋白、洋銀=10~30%ニッケル)は銀めっき製品基材、ファスナーなど多くの日用品に用いられている。18%ニッケル、27%亜鉛、55%銅合金は耐食ばね材としてきわめて広い範囲で用いられる。

[及川 洪]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ニッケル合金」の意味・わかりやすい解説

ニッケル合金
ニッケルごうきん
nickel alloy

ニッケルは典型的な遷移金属であると同時に面心立方晶であるため,遷移元素 (クロム,モリブデン,コバルトなど) とも,b亜族の面心立方金属 (銅,金など) とも広範囲の組成で固溶体をつくり,耐食性,耐熱性のよさから良質の構造用鋼,ステンレス鋼の製造にはクロムとともに不可欠の重要成分となっている。 (1) ニッケル-銅合金はいずれも有用な合金である (→銅ニッケル合金 ) 。 (2) 鉄-ニッケル合金は熱的,電磁気的に特色のある合金が多い。この系の合金は次のように分けられる。 (a) 磁性合金 パーマロイ系合金と磁歪合金がある (→磁性材料 ) 。 (b) 膨張率利用合金 熱膨張率が特に小さいアンバー系合金 (→不変鋼 ) と白金とほとんど等しい熱膨張率 ( 8.9×10-6/℃ ) のプラチナイト系合金が著名。プラチナイトに銅をかぶせた線をジュメット線といって導線のガラス管封入用に使う。 (c) 耐食合金・耐熱合金 古くからハステロイ系の合金が有名で,他にインコネル,イリウム,ジュリメットなどの耐食・耐熱合金があり,種類が多い。特にインコネル系に優秀な超合金が開発されている。 (3) その他 電熱線ニクロム,熱電対用に最も広く使われるアルメル・クロメルなども高ニッケル合金である。珍しいのは歯科用合金サンプラチナで,ニッケル 88%,クロム 11%に鉄,ケイ素,アルミニウム少量添加で,ほとんどクロメルに近い。

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百科事典マイペディア 「ニッケル合金」の意味・わかりやすい解説

ニッケル合金【ニッケルごうきん】

ニッケルを主成分とする合金。ニッケルは銅・鉄とあらゆる割合で固溶体となり,各種のニッケル鋼や,モネルメタルなどをつくる。そのほかにも耐熱・耐食用のインコネルハステロイ,高導磁率のパーマロイ,熱膨張係数の低いインバー,弾性率の温度係数がほぼ一定のエリンバー,電熱材料のニクロムなど,重要な特性をそなえたものが多い。
→関連項目耐食合金

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